LIVE REPORT WHITE STAGE 7/30 SUN

BONOBO (Live)

ダンス・ミュージックの新スタンダード

今年1月にリリースした最新作『Migration』が日本を含む50カ国でiTunesエレクトロチャート1位を獲得したBONOBOの初バンドセットということで、小雨ながらホワイトステージはライブスタートの20分前あたりからすでに人でいっぱいだ。ステージ上はスモークが焚かれ、フォギーな演出の中、BONOBOと4人のメンバーが位置につく。最近のエレクトロ、インディーロックとクラブ・ミュージックを横断的に表現するアーティストの常で、ドラマーももちろパッドも叩くし、サンプラーやシンセ担当も複数の楽器を兼任するが、このバンドで特徴的なのはエレクトリックギター、そしてサックスとフルートをプレイする生音担当の役割が明確だったことだ。

1曲目からアルバムのタイトルチューン“MIGRATION”を配置し、静謐な音作りを印象付ける。2曲目の“BREAK APART”では、エレクトロ・ソウルを自称し、本人の単独作の評価も高い女性シンガー、Szjedeneがライブに加わった。エレピのメロウなリフと、クリーントーンのギターが、荒涼とした自然を映し出す背景の映像と見事なリンクを見せる。

BONOBO自身はベース・プレイヤーとしての側面も存分に見せ、左手でフレットを押さえるだけで出る音に加え、右手ではシーケンサーで音のレイヤーを作り出していく。ドラムパターンは割とストレートにハウスの生音解釈といった感じで、スムーズに踊れるビートだ。バンドメンバーが一旦はけ、BONOBO一人でリアルタイム・サンプリングをしているのだろうか?曲の前半に弾いたベースラインに小さなシーケンサーを操る様は、トラック・メイキングの現場を見たような趣きも。実はしっかり計算された演奏なのかもしれないが、見ていて感じたのはBONOBOのセンスは理性的でほんのすこしメランコリックだということ。攻撃的な部分はないが、それでもこの人が肉体か直感に従って音像を組み立てるのが楽しくて仕方ない姿勢は伝わってきた。

終盤の“No Reason”で再びSzjedeneが歌い、生音のハウストラック的な踊りやすいグルーヴが加速する。もしかしたら、テンプレの爆発とメインリフのEDM以降にダンス好きが求めているのは、彼ぐらい落ち着いたセンスのいいダンスビートなのかもしれない。端正で上品、でも静かに内側から盛り上がるアレンジセンス、加えてバンドだということも大きいのだろう。前方のオーディエンスは思い思いに体を揺らし、中にはロックコンサートのようにリフトしてもらい見ているファンもいた。今、20代のダンス・ミュージック・リスナーにとってのスタンダード、そして構成されている音——カオスパッドやミニマムなシーケンスは自然音に近いものなのかもしれない。

テン年代のSF映画の劇伴などでもしっくり来るサウンドだが、想像以上にプリミティヴにモノ作りとしてのライブを楽しんでいるBONOBO。バンドセットで来年またやって来るのも楽しみなところだ。きっとホワイトの歓待に気を良くしたはずだから。

 Photo by Yumiya Saiki  Text by 石角友香 Posted on 2017.7.30 17:40