小沢健二
夏休み、我らが社会の偉大なる時計
21時10分に終了したホワイトステージを「このあとピラミッドガーデンで、全然違うセットリストでもう1回やるので、全員!来てください!」とのMCでライブを締めくくった小沢健二。しかしこれが無茶振りであることは、フジロック経験がある人ならわかってもらえることと思います(ピラミッドガーデンとはホワイトステージと逆方向最奥に位置するキャンプ場横の小さなステージで一番遠い)。追い討ちをかけるように、移動を開始したタイミングで土砂降りの雨が再開。ライブで疲れた体を引きずって、びしょ濡れになりながら、しかもエイフェックスをあえて無視して、ノロノロとしか進まない渋滞の中長い長い移動の末にたどり着いたのが約束の地、ピラミッドガーデンでした。
“Solo le Pido a Dios / 祈ることは”や会場からもどよめきが起きたフィッシュマンズ“ずっと前”などのSEで期待が高まるなか、東京スカパラダイスオーケストラのNARGOと一緒に小沢健二が再登場しました。
1曲目は「やる」と宣言していた“天使たちのシーン”。ピンクのシャツに着替えた小沢君は頬に白の三本線のペイントとこめかみのあたりに小さな青いフェイスアクセサリーをつけていて(ホワイトでは未確認)、色とりどりの布でパイピングされた袖口を捲り上げています。緊張感のあるホワイトステージとは違って、服装も本人もややリラックスした雰囲気です。
完璧な演奏を終えてハイタッチでNARGOを見送った小沢君はステージから雨の具合を聞いてきました(客席から「大丈夫」との声)。そして、このライブセットは美術館で行っているものであること、「モノローグ」という話を聞くパートがあること、それを聞く元気があるかどうか心配であること、などを話してくれました(もちろん「大丈夫!」との声)。それに続いて披露された新作のモノローグ「夏休み、我らが社会の偉大なる時計」はこの時期のフジロックに合わせて準備されていたと思われる内容でした(モノローグ披露中には「オーランドといえば?」(客席に2回ほど聞くが答えがない)「(変な声で)ボクダヨ!ミッキーマウスダヨ!」とのモノマネもあり)。
次の曲は“飛行する君と僕のために”。これまで行われた「美術館セット」と同様に、小沢君が自ら打ち込んだというドラムマシーンとアコースティックギターのみの編成です。ホワイトで演奏した“飛行する君と僕のために”について「すげえ良かったですよね!」「雨がこう(手で示す)降ってて」とのテンション高めのMCに続いて3曲目は北原雅彦とともに“ぼくらが旅に出る理由”。ちょっと跳ねたようなリズムとアルペジオで「この曲ってこんなにキュートだったのか…」と気づかされる演奏に続いて、ソロにて“それはちょっと”。サビの最後の「絶対ダメ!ダメダメダメ!」をさらに「イヤイヤ!」と言い換え、最終的には「ダメダメイヤイヤ」を散々繰り返すという改変に客席も和やかなムードに包まれました。
続いてはGAMOを迎えて“ドアをノックするのは誰だ”。静かな環境でのアコースティックライブとあって、小沢君の声を消さないように客席は歌うのを我慢している様子。ファンにはおなじみ「ドアノックダンス」も、小ぶりにこっそりと踊られていました。
2回目のモノローグが終わって自然と起きた拍手に対して「いや、いらないですから」と笑った後で“神秘的”。演奏するべき場所と曲とタイミングが揃うと、音楽というのはこんなにも心地よく響くのかという、白眉の演奏でした。続いて、沖祐市と白根佳尚を招いてドラム、オルガン、ギターボーカルという編成に。「ひ、ふ、ひふみよ」のカウントに続いてタイトでキレのあるアンサンブルの“流星ビバップ”そしてスウィートでセンチメンタルな“いちょう並木のセレナーデ”と、文字通りの神演奏。
ミラーボールとたくさんのフラッグが施され、オーガニックな食べ物や衣料品なども扱うピラミッドガーデンはキャンドルアーティストのCandleJUNEさんが空間演出を担当しています。大きなキャンドルが何十本もレイアウトされ、ドレープがたっぷり取られたカーテンで装飾されたステージは神聖だけど親しみやすさもある特別な雰囲気。環境の良さと曲の良さがピッタリとマッチした中で最後に演奏されたのは“天気読み”と“流動体について”。小沢健二の最近の活動は、社会派であるところも含めてフジロックと相性が良いのではないでしょうか。来年以降の出演に、期待が高まります。
*本レポートではアーティストの意向によりステージ写真を使用しておりません。
セットリスト
天使たちのシーン
モノローグ「夏休み、我らが社会の偉大なる時計 第1章 休みの日」
飛行する君と僕のために
ぼくらが旅に出る理由
それはちょっと
ドアをノックするのは誰だ
モノローグ「第2章 夏休みって、春休みだったのか!」
神秘的
流星ビバップ
いちょう並木のセレナーデ
モノローグ「第3章 夏休み、我らが社会の偉大なる時計」
天気読み
流動体について