出演時間5分前になっても、ステージにしゃがみこんで数人のスタッフとああだこうだと曇った顔のヴィニーを見ていると不安に駆られた。機材トラブルなんて日常茶飯事のことだろうけれど、何せ、ここは彼らにとってはアウェイな日本での初ライヴとなればなおさらである。
手作り感満載なTシャツに半パン、ペラペラなスニーカーなだいたいお揃いの衣装で登場したのは、スコットランドはエディンバラのバンド、ジャンゴ・ジャンゴだ。飛行機が離陸するために加速し機体が重力に勝った瞬間の浮遊感を体現させてくれるような曲”イントロダクション”~”ヘイル・ボップ”で始まった。音の感触、初対面するオーディエンスとの距離感を埋めていくかのように、音を確実に出すことに集中しているのが手に取るようにわかる。始まるまでの不安をよそに、「僕が覚えた日本語は「シャシンオネガイシマス」なんだよとヴォーカルのヴィニーが話しはじめると、先ほどまでの不安をよそに、オーディエンスを笑わせる余裕が出てきたことに安堵するのだった。デイヴのドラムセットを慌ただしく直したり、グリーンのストラトキャスターのチューニングがあっていないのか、ヴィニーがけっこうな時間を取って調整したりと小さなトラブルは引き続きあったものの、通りすがりの人をどんどんと吸収していくうちに、いつしか振り返ると、どこまで人の重なりがつづいているのかわからないほどの人でいっぱいになっていた。当然盛り上がりも右肩上がりになる一方で、本来のバンドの持つサウンドのスピードと演奏とがリンクしていった。
中盤からはトミーが変則的にパートを変えていく”ウェーブフォームズ”、最も盛り上がった”デフォルト”、彼らの歴史が始まった曲”ストーム”、炎天下のこの夏の昼下がりにぴったりな疾走感のある”ライフズ・ア・ビーチ”、ラストの”ウォー”と、元々、違った毛色の曲が多いジャンゴ・ジャンゴの曲たちがさらにくっきりと輪郭をあらわにし、前半の静のジャンゴ・ジャンゴから、絵的にも音的にも積極的に攻める動のジャンゴ・ジャンゴへと変身していった。なかでも秀逸だったのが、何と言ってもインストの曲である”スカイズ・オーヴァー・カイロ”。安定したデイヴのドラムとジミーのベースに。スコットランドから自分の愛用しているJUNO60を持ってきたというトミーのダビーなシンセからはアラブな風を運び、ヴィニーがさらに小さな鍵盤で色を添える。聴くタイミング、聴く環境によって、曲の新たな発見を常にさせてくれるジャンゴ・ジャンゴの神髄を再確認することができた。頭の中の高揚をつかさどる部分がどんどん覚醒され、彼らにとっては未知との遭遇も、あっと言う間にジャンゴ・ジャンゴ色へ染めて、オーディエンスの心をワシ掴みにした。
初日の真っ昼間のホワイトで、ステージ前があんなに人で埋め尽くされる光景は私がこれまでに見た限りでは初めてだった。位置づけ的には、新人バンドであるジャンゴ・ジャンゴがあれほどまでに人を集めるとは正直ビックリだった。2009年に産声を上げたバンドは本国イギリスだけではなく、海を渡ってSXSWでも絶賛され、その波はここ苗場にも波及し、そのバンドの魅力が証明されたと言ってもいいのだろう。元を辿れば、ザ・ベータ・バンド、スコットランドの小さな小さなレーベル、フェンス・レコーズの流れから知ることとなったジャンゴジャンゴが、まさか日本であれだけの喝采を浴びる日が来るとは感慨もよりいっそうひとしおである。
DJANGO DJANGO
写真:熊沢 泉 文:ヨシカワクニコ