スティールパンの音がアバロンに涼風を誘う
ジプシー・アバロン最初のアーティストは、赤いワンピースに身を包んだ女性アーティスト、トンチが登場だ。1999年からスティールパンを始めたというトンチは、本場トリニーダの楽団に所属の経歴を持つ。
1曲目は”米つぶ”で始まる。スティールパンの音を例えるなら、水の音。ぽこぽこと心地よい音とそよ風のハーモニーがこの会場ならではの、心地の良い雰囲気を生み出し、ふと会場を見渡すと寝そべったり、座ったり、お客さんは思い思いに芝生の上を過ごしている。
フラテン小島誠也、三田村管打団の亀井奈穂子をサポートに向かえると、演奏は更に緩やかさと柔らかさを増していく。
”すもぐり”や言葉にならない不思議な歌詞の”アイヤ”など、今年3月にリリースしたアルバム『おたから』からの曲が続いた。
フジロック初出演の彼女は、「緊張をほぐすため」と、突然、映画『鮫肌男と桃尻女』の登場人物(山田という人物らしい)の物まねを披露。笑いで会場の空気がほぐれたところで、終盤へ向かう。
これまでの流れとはうってかわって、アップテンポの”イナズマドン”では、キンと切れのあるサックスの音に驚き、うたた寝していた数人がはっと起き上がるほどだった。
トンチの歌は、スティールパンの音の持つ優しさがそのまま反映されたような透き通った声だが、時に激しく、様々な声色で曲を最大限に飾っていく。ラストは”ラニマノウ”。暑さを忘れるほど、心に解放感を与えてくれるアーティストだった。
写真:直田亨/文:千葉原宏美