最狂!癒さない系伝説
「フジロック、最大の注目はROVOと下山!」。今年のフジロック直前、こうつぶやいていたのはノイズの帝王、非常階段のJOJO広重だ。下山(GEZAN)とはいったいどのようなバンドなのか。フジロック初日、グリーンステージではヘッドライナーのザ・ストーン・ローゼズ(THE STONE ROSES)のライヴが終わろうかというところ。もちろん(?)そのようなグリーンステージには背を向けて、目指すはフジロックの裏番長エリア、場外のパレス・オブ・ワンダーだ。
パレスの一角には、オーディション形式で選ばれた新人バンドが登場する登竜門的ステージ、ルーキー・ア・ゴーゴーが存在する。そのステージに今夜最初に登場するのが、ボーカルのマヒトゥ・ザ・ピーポー、ギターのイーグル・タカされ、ベースのカルロス・尾崎・サンタナ、ドラムのシャーク・安江の四名からなる下山(GEZAN)だ。
もともとパレスは真夜中に出現する摩訶不思議な空間ではあるけれど、これほどのカオスが出現するとは。轟音版の”仁義なき戦いのテーマ”が流れ出すと、メンバーがステージに登場する。金色に輝く全身タイツに真っ赤な腹巻姿のギター、下半身スパッツ一丁のドラム、アフロヘアにボディコンワンピ―スのベース(注:男性)。そして同じくボーカルもワンピース姿(注:これも男性)。そして姿以上にカオスなのは、登場したとたんにルーキー周辺に発生した、皮肉とユーモアと狂気に満ちた、鬼気迫る緊張感と轟音だ。もしこのレポート文章を読まれたとしても、即座に鼻で笑ってしまわれそうな、気軽には近寄れなさそうなたたずまい。それがまた、カッコいいではないか。
“三島と口紅”でライヴはスタートする。すさまじいテンションと超絶技術をともなった演奏に、ボーカルのマヒトゥの視線はあちらこちらと泳いで、まるで客席をサーチ&デストロイ。怖えー!でも目が離せない。覆った手の指のすきまからガン見するような、そんな感じ。最前には熱狂しているお客さん、そしてステージ周辺には目を奪われているお客さん。暴力的ともいえるグルーヴが、ズブズブとステージ周辺を呑みこんでしまう。ひええ。
「○トーンロー×ズみたいな死にかけのおっさんのロック聴くくらいなら、生身の私たちを見ましょう。」しれっとした表情でこう言ってのけるマヒトゥ。確かに、今このステージには、匂い立つような生々しさが満ちている。好きな人にはたまらない、嫌いな人には耐えられない、的な演奏。それこそが個性だし、ロックのキモだし、まさに下山の存在そのものではないか?
あぁ、ここはすでに轟音の彼岸。最後にはボーカルのマヒトゥがマイクをステージに叩きつけて去って行った。またえらいインパクトを残して。「次はもっと大きなとこに出させて下さい。」ともうそぶいていたけれど、ほんと、来年のフジロックのどこかのメインステージで狂い咲いている姿が見てみたい。終演後、ステージを見ていたお客さんが興奮気味に連呼していた言葉を、最後にお借りしたいと思う。
「すげえーなー、よーうやるわ!」
下山
写真:八尾武志/文:小田葉子