さぁ、輪になって希望を旋回せよ
「ちょっとね、ゆっくり見させてもらいますね」とステージからの景色を眺めるTGMXは、この日、フジロックのホワイトステージに立つ感慨をこうやって表現した。フジロックはお客さんが楽しむためだけの3日間ではないのだ。ステージに立つ側にとっても、とっておきの空間であり、それがとっておきの時間なのだ。相思相愛から生まれる音楽の相乗効果がこうやって目に見えるとそれだけで、フジロックに来てよかったと、心から思わせてくれる。今日も炎天下のなか、集まったオーディエンスのスタートダッシュの早さは脱帽以外の何でもない。
しかし、こいつはせこいぞ太一さんよ!シンセベースと言えば、固定位置で確かにステージを動けない不自由さがあるかもしれない。じゃあ、それを解決するには、そっか、ショルダーキーボード風にしちゃったらいいのだよ。クールにギターを操る増渕の逆で、頭ふりふり、早弾きを華麗に決めるかのごとくにシンセベースをピロピロピロピロ操る。ギターは顔で弾く図をショルダーキーボド風に再現してくれるのはきっとアナタだけですよ。曲によって7台のキーボードとシンセをフル活用して、厚みと疾走感がホワイトステージを駆け巡る。
太一が青地に白で”HOPE”と書かれたタオルを掲げると、頭上でグルグルと回し始めた。オーディエンスがそれに答える形は当然、タオルの旋回に決まっている。色とりどりのタオルがスピードを加速しながら旋回を続けると、”FBY”と書かれた旗を手にするTGMX。ステージで旗を振るのにも物足りなく感じたのか、カメラピットに織り、オーディエンスにハイタッチをし、それでもなおオーディエンスとの距離を縮めたいかのように、柵を越え、オーディエンスの中へどんどんと進んでいった。「さぁ、輪になって」とPA前まで進んで、旗を降り続けたまま縦横無尽に練り歩くと完全にやる側、観る側が一心同体になった。グリーン方面からのんびりと歩いていた人たちも、磁石に引き寄せられる砂鉄のように、その渦はみるみる大きくなるのだった。