赤と黒と、ホワイトステージと
赤い。その日、朝からホワイトステージは真っ赤だった。ステージのバックドロップ一面に、真紅のサテン地の幕がひかれていたのである。艶やかな赤をバックに、それとはまた対照的な、黒づくめの男女がリハーサルを始めている。
で、黒いのだ。野外の夏フェスをものともしない黒い革ジャン姿はボーカルの佐々木亮介、黒のドレスにセクシーな網タイツ姿はベースのヒサヨ(HISAYO)、そして黒いつなぎ姿はドラムの渡邊一丘。サポートギターの曽根巧も黒づくめ。a flood of circle(ア・フラッド・オブ・サークル)が、軽くサウンドチェックを行っているところであった。そして舞台は朝一番、ホワイトステージだ。
鮮やかな色のコントラストの中で演奏され始めたのは、”泥水のメロディー”。気だるい空気ただよう朝のホワイト周辺に、フリーキーなギターとうねるリズムは荒っぽい目覚まし状態。佐々木は「じゃあもうちょっと待ってて。」と言いながら、他のメンバーとともに、いったんステージ裏へと去って行く。
「おはようございます、ア・フラッド・オブ・サークルです!」。そして再び登場した彼ら。朝だろうと夜だろうと、ライヴのたびに繰り返されてきた佐々木のこの挨拶に、彼らが今日このステージに上がるまでの道のりを思い起こしていた。初めてフジのステージに立ったのは07年のこと。その時のルーキー・ア・ゴーゴー出演の思い出を語ってくれたのが09年のレッドマーキー。メンバーや状況で変わってしまった部分もあるけれど、最後まで揺らぐことのなかったものが、彼らのブルーズであり、ロックンロールなのだ。
ライヴは”ブラッド・レッド・シューズ”で幕を開ける。「東京都新宿区歌舞伎町からやってきました!ア・フラッド・オブ・サークルです!」そんな佐々木の無骨な自己紹介さながらに、”ザ・ビューティフル・モンキーズ”、そして”シーガル”とゴリゴリの演奏が転がっていく。中盤にはロックンロール・スタンダードなレッド・ツェッペリンのカバー曲”胸いっぱいの愛を”や、爽やかさとは一切無縁(?)の黒くて熱い新曲”サマー・タイム・ブルースⅡ”も披露された。「本当に手に入れたいもの」が明確だからこそ、今のフラッドにはブレがない。ホワイトステージのような大舞台に立っても、臆する様子は見られなかった。差し入れられたビールを手にステージ前で乾杯してみせ、歌いながら軽くタンバリンを叩き鳴らす佐々木、ベースをうならせるクール・ビューティーなヒサヨ、彼らを受け止めてたくましく支える渡邊の姿。”プシケ”の演奏中に紹介される「フラッドの大事なメンバー」は今、見ていてホントに痛快だ。
ライヴ終盤、フジロックのステージでどうしてもやりたいことがあったんだよ、と語る佐々木。そしてスペシャル・ゲストとしてステージに招き入れられたのは、この日クリスタル・パレスに出演予定の「勝手にしやがれ」からホーン隊(トランペットの田中、トロンボーンの福島忍、テナーサックスの田浦健、バリトンサックスの飯島誓)と鍵盤の斉藤淳一郎。黒いスーツに身をかためた男たちの登場に、昼間だというのにいよいよステージ周辺の空気は夜の艶やかさ満点である。
共演したのは”フェルディナン・グリフォン・サーカス”に”I LOVE YOU”。決して狭くないホワイトステージで、ところ狭しと演奏される黒づくめたちの粋な共演に、お客さんも大歓声。ラストにはステージ上の全員で手をつなぎ、客席にバンザイをして見せる。タイミングを合わせて、さらにもう一度。晴ればれとしたメンバーの笑顔に、お客さんの歓声と拍手。ホワイトステージで見せた、ゆらめく赤を背にした、黒く揺るがない彼らのロックンロール。それは本当にドラマチックな展開だった。
a flood of circle
写真:深野輝美/文:小田葉子