GREEN STAGE, | 2012/07/29 16:30 UP

井上陽水

日本語詞の歌の持つ圧倒的な説得力

井上陽水という人は、普段テレビで喋っているところをみる限りでは、感覚で生きるタイプの天才肌のように見えるかもしれない。しかし、実際はものすごく考えるタイプの人なのではないかと思っている。10年ぶりとなった出演した今回のステージで、その想いはさらに強くなった。

10年前にフジロックに出演した際、友人でありフジロック常連アーティストでもあった忌野清志郎に相談し、「フジにくるお客さんは君のことはあまりよく知らないんだから、売れた曲から順番にやればいい」とアドバイスされたという。その結果、少年時代、アジアの純真、氷の世界…といった代表曲満載のセットリストとなった。ただ、1曲目を覚えているだろうか。緑あふれる苗場で、「都会では自殺する若者が増えている」という歌詞から始まる「傘がない」をもってき、多くの観客を唸らせたのである。年齢層が若いロッキン・ジャパン・フェスティバルでの1曲目が「アジアの純真」だったことを考えても、これは陽水なりのたくらみだったのだろうと思っている。

そんな陽水のことなので、前回とまったく同じセットリストはないと思っていたが、期待以上のセットリストだった。何より、フジロックで「帰れない二人」を演奏した意味は大きいのではないだろうか。この曲は、日本初のミリオンセラーを記録したアルバム『氷の世界』に収録された、清志郎との共作である。特にこの曲の制作背景や清志郎との思い出を語ることはなかったものの、きっと陽水ならではの想いが込められていたのではないかと思う。かつては同じグリーンステージで元気に歌っていた清志郎の姿が思い起こされ、思わず目に涙が滲んだ。

そのほかにも、メジャー・デビュー・アルバム『断絶』から「感謝知らずの女」と「限りない欲望」の2曲、セカンド・アルバム『陽水Ⅱ センチメンタル』からは「東へ西へ」、そして『スニーカーダンサー』から「なぜか上海」と、昔からのファンをも満足させる選曲。そして後半は、誰もが知る名曲オンパレードだった。代表曲「少年時代」では、聴衆それぞれの“あの頃の夏”を思い出させ、「氷の世界」ではファンキーなアレンジで観客を揺らす。メッセージ性の強い歌詞の「最後のニュース」では、グリーンステージが奇妙な静寂に包まれた。歌は人を湧かすだけでなく、ときに人を黙らせるものなのだ。

ステージを通して、自分の想いを語ることや、説教めいたMCは一切なかった。記憶にある台詞といえば、ステージを去る際の「どうもみなさん、ありがとサンキュ。さよなら、お幸せに」という、実に陽水らしい不思議な一言くらい。アーティストが音楽以外の活動で自己表現することが多い昨今。それを否定するわけではないし、誰もが歌だけで自己表現できるものでもない。ただ、歌だけで圧倒的な説得力をもち、聴く者に強烈な印象を残していった陽水に、しばらく胸の高まりが収まらなかった。

〜セットリスト〜
01. 東へ西へ
02. 感謝知らずの女
03. リバーサイドホテル
04. 帰れない二人
05. なぜか上海
06. 限りない欲望
07. 最後のニュース
08. 氷の世界
09. 夢の中へ
10. 少年時代
11. 傘がない


写真:直田亨 文:本堂清佳
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