新しい胎動
revolution(レボリューション)。この言葉は大まかに、ふたつの意味が存在するそうだ。ひとつは、革命。体制や組織の構造を根底からくつがえすような改革のことだ。そしてもうひとつは、回転。動詞の「revolve」から回転する、ぐるぐる回る、そんな意味の言葉としてとらえられている。いずれにせよ、そこにとどまったまま滞留していてはいけない、そんな言葉なのだろう。
「元気ですか?暑いね。ちょっとだけ涼しい風が吹いてきたので、ゆったり行こうか。」まだまだ日差しは強いけれど、それでもようやく涼しい風が感じられるようになってきたフジロック最終日の午後。初日はカフェ・ド・パリ、二日目はジプシー・アヴァロンに登場してくれた加藤登紀子が、にこやかな笑顔でそう言いながら、フィールド・オブ・ヘブンのステージに現れた。
昨日は「完熟トリオ」として同じヘブンのステージに登場してくれたセンチメンタル・シティ・ロマンスのギター、中野督夫をはじめ、凄腕のミュージシャンを引きつれて演奏され始めたのは、”サボテンのこころ”。芯がきちっとありつつも、自在に揺れる歌声は、まさに彼女そのものをあらわしているように感じる。そしてなによりも、語りかけてくるようなステージは、演奏技術や技量もさることながら、その中心にある「誠実」を感じさせてくれるのだ。
「どう?三日目。疲れた?私も三日間ともライヴをやらせて頂いて。最初のカフェ・ド・パリはほんと、窒息するかと思うぐらい会場が満員で、二日目のアトミック・カフェでは真剣な話がいろいろできて。そして今日は最後のヘブンで、じっくり聴いて頂きたいと思います。」
2006年に初めてフジロックに登場した時と同じヘブンのステージで、歌い出されたのは”さくらんぼの実る頃”。そして”時には昔の話を”へと続くと、お客さんから歓声が上がった。祈るようなしぐさで歌いかける彼女の姿は優しい母のようであり、時に神々しくもあるのだが、「フジロックにくるとみんな汚いのがいいね!汚いっていうか美しいっていうかさ。これこそが美しいんだっていうね!ちまちまスーツなんか着ないで、ハイヒールなんか履かないで!ホントにいい風景!日本中をフジロックにしようぜっ!」なんて語りながら笑う姿は、とてもチャーミングなのだ。
「”1968″っていう曲があります。みんな生まれてた?」こう切りだして彼女が語り始めたのは、1968年という時代。戦争が起こり枯葉剤の傷跡が今も残るベトナムの、「許すこと、忘れること」をしなければならなかった人々の痛みに対して、と言いながら演奏された”1968″は、この日、日本人の心にも深く響いていたに違いない。
ライヴ後半、同じくヘブンのステージに登場してくれたA 100% SOLARS(ア・ハンドレッドパーセント・ソーラーズ)から、佐藤タイジがゲストとして登場。今年の3月11日に日比谷で行われた東日本大震災・市民イベント「PEACE ON EARTH」で知り合い意気投合したといい、お登紀さんも佐藤タイジに対して「(会場を)ちょっと涼しくしておきました。」なんて言って笑っている。
そんな和やかな雰囲気の中でセッションされたのが、新曲の”New Revolution(ニュー・レボリューション)”。続く”Power to the people(パワー・トゥー・ザ・ピープル)”では会場中から大合唱が起こり、佐藤タイジと対決せんと言わんばかりに、まるでしこを踏むようなポーズでギターを弾いて見せる中野の姿に、お客さんは大喜びだ。
最後にはアンコールも起こり、ラストは加藤登紀子withみちのくプロジェクトの新曲、”わせねでや”が演奏された。「わせねでや」とは、東北弁で「忘れないで」の意味。忘れないこと、そしてとどまらないこと、行動すること。フジロック三日間の最後に演奏されたこの曲は、フィールド・オブ・ヘブンに集まった人々の心に、新しい胎動を呼び起こすメッセージとなって伝わっていたに違いない。
加藤登紀子
写真:岡村直昭/文:小田葉子