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Posted on 2013/07/28 17:06
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ステージで泣くほどフジロックを愛した男の物語

金佑龍インタビュー

シンガーソングライター、金佑龍(キム・ウリョン、以下キム)。一体どれだけのフジロッカーがこの名前を知っているだろうか。2006年と2007年にフジロックに出演した、カットマン・ブーチェのボーカル兼ギタ—と紹介すると、もしかすると思い出す人もいるかもしれない。さらに補足をするのであれば、フジロックに初出演を果たした2006年、「俺、夢やってん、ここ……。ずっとテレビ見ててな、来たかってん……」と、フィールド・オブ・ヘブンのステージで号泣してしまったのが彼だ。2000年のフジロックのビデオに衝撃を受け、憧れ続けた夢の舞台への出演。そこに立つまでのドラマは、2007年に行ったこちらのインタビューを参照いただきたい。当記事では、その夢の果てに行き着いたバンドの解散という結末と、6年ぶりの出演となる今年のフジロックに至るまでを伝えていく。

客観的に見ていた限り、2007年以降のカットマン・ブーチェの活動は順調だったように思える。2008年に初のフルアルバムをリリースし、ロック・イン・ジャパン・フェスティバルなど、国内の大型フェスにも出演。東京では代官山ユニットでのワンマンライブを重ね、地力をつけていった。順調であったように見えたバンドの歯車が狂いはじめたのは、2009年のこと。ベーシストである林周作がバンドの脱退を表明した。バンドを続けていくと、さまざまな人がバンドのサポートとして介入してくることになる。その支えがあるからこそバンドを続けられる反面、ときにはバンドの方向性を変えてしまうほどの力がバンドにぶつけられることもあるとキムは話す。カットマン・ブーチェとして何を表現していきたいのか。その議論の末の結果が、林の脱退につながってしまった。

「誰か1人がくたばるまでやりたいなって(笑)。1人抜けたら解散っていうのがあって、それだけは絶対したくない」。この言葉は、先に紹介したインタビューの中で、キムがフジロックともう一つの目標として語ってくれたものだ。描きたくなかった未来が、突如として彼らの前にやってきた瞬間だった。そして、キムの頭には「解散」の2文字が浮かぶ。だが、バンドはキムとドラマーである小宮山純平の2人で継続していくことを決意。「解散したいという気持ちは強かったけど、そうすることは、サポートしてくれてきた方々を裏切ってしまうように思えたんです」と、継続を決意した理由を話す。しかし、その後もキムの心は揺れ続け、2011年1月にバンドの解散を発表するに至った。

バンドの解散は、大げさでなく、キムから生きる目標を奪っていった。周囲の仲間からは音楽を続けるよう促されるが、意欲が沸いてこない。徒歩で片道4時間かかる自宅から渋谷までを、夜な夜な歩き続けた時期もあったという。そんなキムに転機が訪れたのは、2011年3月のこと。何気なく聴いてフィッシュマンズの”ナイトクルージング”がやけに心に響いた。「以前から知っていたバンドでしたが、熱心なファンのように聴き入っていたわけではないんです。ただ、あるとき聴いたら琴線に触れたような感覚がありました」。音楽に対して、少しずつ気持ちが前向きになっていく。そして同じ時期、音楽活動を再開するにあたり、決定的となる出来ごとがあった。それは先輩ミュージシャン、リクオの粋な計らいだった。「リクオさんのライブに連れていってもらったんですけど、その打ち上げで参加者一人ひとりに対して順番に、無名の僕を丁寧に紹介してくれたんです」。ミュージシャンとしてのキムに対する期待、そして優しさはキムの心に大きな感動を与え、その行動がキムの人生の道しるべとなった。キムは音楽活動の再開を決意する。

およそ2ヶ月の空白期間を経て、ようやくソロとしてのキャリアがスタート。所属する事務所もないため、ミュージシャンとして生きていくためのすべてを自分ひとりでこなさなければいけないが、忙しくも精力的に日々を生きていった。そして活動を続けていく内に、キムは再びミュージシャンとしての目標を抱くようになる。それは「フジロックに出演したい」という、バンドを結成した当初と同じものだった。「フジロックは僕にとって初めての音楽フェスで、数ある音楽フェスのなかでも一番好きな存在なんです」。そう思い立つと、カットマン・ブーチェ時代にお世話になったフジロック関係者の元を訪れ、まだデモ段階だった音源を渡し、素直な想いを伝える。この音源は高く評価され、木道亭とバスカーストップ、ふたつのステージがキムに用意されることになった。このライブレポートについては、当サイトにてチェックしていただければと思う(木堂亭バスカーストップ)。

ライブ終了直後、キムに6年ぶりのフジロックの感想を聞くと、「全然やり足らないです!」という言葉が飛び出す。再びこの場所に戻ってこれたことへの喜び、そしてもっともっと歌いたいというミュージシャンとしての欲求が入り混じっているのだろう。木道亭のライブ時に発した「来年も会いましょう!」というMCも、そんな想いがそのまま言葉になったのだと思われる。無論、キムが来年出演することは確定していないが、個人的にはそうあってほしいと思っている。フジロックとcutman-booche、金佑龍が織りなすドラマの続きを、またこの場所で見たいのだ。

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