GORILLAZ
ゴリラズが与えてくれた最高の宴
今から19年前の1998年。デーモン・アルバーンとイラストレーターで友人のジェイミー・ヒューレットが、カートゥーンバンド「ゴリラズ」のプロジェクトを立ち上げた。メンバー構成は、ひねくれ者のマードック(B/Vo)、お人好しの2D(Vo/Key)、大阪出身やんちゃガールのヌードル(Gt.)、ブラック・アメリカンのラッセル(Dr)の4人。2001年にデビューアルバム『Gorillaz』をリリース。その当時のライヴのスタイルとしては、ゴリラズの世界観(カートゥーンバンドが曲をプレイする)を通すために、スクリーンの裏側でデーモンらバンドメンバーがプレイするというものだった。それから16年経ち、ゴリラズのライヴのスタイルも大きな変化を見せる。今年6月にイギリスで行われたゴリラズ主催のフェスティバル『Damon Dayz Festival』では、デーモンも含めたバンドメンバー全員がフロント側に立ち、かつ、デーモン自身も120%前に出るという”らしさ満載”のパフォーマンスを行っていた。「このセットがフジロックで見れてしまうの!?」そんな高まる期待を抱きながら、初日グリーン・ステージ、ゴリラズのフジロック初ステージが開演の時間を迎えた。
続々とメンバーが入場する中、最後にデーモンが黒いマスクを付け、ギターを片手に登場。ファーストアルバム『Gorillaz』収録の“M1A1”からスタートしたライヴは、アッパーでパンキッシュなナンバーということも相まって、しょっぱなからオーディエンスのテンションをブチ上げる!続いて、今年4月にリリースされた新作『Humanz』から“Ascention”、この曲でゲスト出演している新進気鋭のラッパー、ヴィンス・ステイプルスがバックのスクリーンに映像で登場しラップする。残念ながらヴィンス本人はいないものの、強靱なバックの演奏とコーラスがあるので、全く遜色はない。むしろバックが際立って見え聞こえるので、序盤でそこのことを認識できたのは、逆に良かったような気がする。
この後、新作の曲と旧作の曲を満遍なく散りばめたセットリストは、ゴリラズの20年の歴史を綺麗なグラデーションを描くようになぞられていて、過去を懐かしむ気分と現在のゴリラズを見ている興奮とが同居して、不思議な高揚感に包まれるものになっていた。“Tomorrow Comes Today”や“19/2000”、“El Manana”、“Dare”など、ファーストアルバムとセカンドアルバムに収録されているナンバーはバックのスクリーンに当時の懐かしいMVが流れていて、特に“19/2000”に関してはラスト、ミサイル打ち込まれて爆破からのドリフターズよろしく真っ黒焦げメンバーのオチに思わずその場でクスッとしてしまった。それだけだと「懐かしいねー」で終わってしまうのだが、そんなファニーな感覚だけに囚われないでいられたのは、何と言ってもバックバンドの圧倒的な演奏力があったからだと思う。
オリジナル音源10倍増しの重低音ビートの強烈さ、ゴスペルやソウルをベースにした強靭なコーラス隊、そしてデーモンの両枠を固めるギターのジェフ・ウートンとベースのセイ・アデレカンの安定感抜群のプレイ。さらには、ステージに彩と厚みを与えるゲスト陣の出演は本当に大きな要素だった。2曲目にプレイした“Ascention”にはヴィンス・ステイプルズ(※1)が、“Saturnz Barz”にはポップカーン(※2)が、“Andromeda”にはD.R.A.Mが、そして本編ラストの“We Got The Power”にはジョニー・ベス(※3)がバックのスクリーンに映像で登場。さらに、“Strobolite”のペバン・エヴェレット(※4)、“Sex Murder Party”のジェイミー・プリンシル(※5)とゼブラ・カッツ(※6)に関しては、なんと本人が登場し、ゴリラズのステージに華やかさとパーティ感を加えていた。そんな強烈なバック・バンド&ゲスト陣を立てつつも、自分の出番ではしっかり存在感をアピールするデーモン。ステージの端から端まで使い切るところだとか、ステージを降りて柵を乗り越え観客とスキンシップを取るところだとか、その辺は非常にデーモンらしかったし、あとはゴリラズに於けるデーモンの三種の神器(ハンドマイク、ピアニカ、ショルダー・キーボード)、この辺も演奏に演出に効力を発揮させていたあたりも非常にらしくて良かった。
新旧アルバムから満遍なく組まれた約1時間半のセットは、アンコールで“Stylo”、“Kids With Guns”、“Clint Eastwood”と鉄壁のアンセムが3連投され、ラスト“Don’t Get Lost In Heaven”から“Damon Days”で終演を迎える。“Damon Days”アウトロのゴスペルサウンドが流れる中、スポットライトを浴びセンターに立ちすくむデーモンの姿に、ブラーの“The Universal”のライヴ終盤で同じように立ちすくみライヴをやりきった佇まいのあるデーモンの姿と重ね合わせ、そこになんとも言えない心地よさのある宴の終わりを感じた。
惜しむらくは“Feel Good Inc.”が見られなかった、“Dare”にショーン・ライダー(ハッピー・マンデーズ)が出なかった、“We Got The Power”にジョニー・ベス(サヴェージズ)もノエル(ノエルはしょうがないか)が出なかった・・・とか、言い出したらキリがないが、にしても、この1時間半のステージは本当に楽しかった。ライヴには「すごいパフォーマンス」とか「感動するパフォーマンス」とか色々種類はあるが、「楽しいパフォーマンス」というのが今も昔もゴリラズにはピッタリだ。
<セットリスト>
M1A1
Ascention(VTR: Vince Staples)
Last Living Soul
Saturnz Barz(VTR: Popcaan)
Tomorrow Comes Today
Rhinestone Eyes
Sleeping Power
19/2000
On Melancholy Hill
Busted And Blue
El Manana
Strobelite (with Peven Everett)
Andromeda (VTR: D.R.A.M)
Sex Murder Paty (with Jamie Principle & Zebra Katz)
Out Of Body(with Zebra Katz & Michelle) (VTR: Kilo Kish)
Dare (with Petra & Rebecca) (VTR: Shaun Ryder from Happy Mondays)
We Got The Power (VTR: Jehnny Beth from Savages)
-Encole-
Stylo(with Peven Everett)
Kids With Guns
Clint Eastwood
Don’t Get Lost In Heaven
Damon Days
(※1) ヴィンス・ステイプルス
アメリカ・カリフォルニア州出身のラッパー。昨年ソロデビューアルバム『Summertime ‘06』をリリース
(※2) ポップカーン
ジャマイカ出身の若手ラッパー。カニエ・ウェストのアルバム『Yeezus』でサンプリングソースとして使われ、ジ・エックス・エックスのジェイミー・エックス・エックスともコラボ経験がある。
(※3) D.R.A.M.
アメリカ・ヴァージニア州出身のラッパー。昨年リリースされたデビューアルバム『Big Baby D.R.A.M.』に収録されているシングル”Broccoli”がグラミー賞の最優秀ラップ/サング・パフォーマンス部門にノミネート。
(※4) ジョニー・ベス
イギリス発のポスト・ロック・バンド、サヴェージズのヴォーカル。そのカリスマ性から現在のロック界において特別な存在になっている。2013年のフジロック、ホワイト・ステージに出演。
(※5) ペヴェン・エヴェレット
20年以上のキャリアを持つシンガー・ソング・ライター兼マルチ・インストゥルメンタリスト。ジャズ・ミュージシャンとして活動を始めて、現在はシカゴ・ハウス作品でシンガーとしても活躍。
(※6) ジェイミー・プリンシル
ぺヴェンの大先輩にあたるシンガー兼プロデューサー。これまで数多くのクラブ・アンセムを産み、シカゴ・ハウスの礎を築いた。
(※7) ゼブラ・カッツ
アメリカ・ニューヨーク州出身のラッパー。今年のフジロック3日目のホワイト・ステージトリを務めるメジャー・レイザーのメンバーであるディプロが主宰するレーベルから2012年にデビュー。