アトミック・カフェ トーク 【津田大介・泉田裕彦・富澤タク】
大切なのは、本当のことを怖れずに言う力だ
原発やエネルギーをテーマにトークやライブを行うという、フジロック社会面担当のアトミックカフェ。東日本大震災をきっかけにスタートしたこの企画も6年目となり、すっかりお馴染みとなりました。今年はザ・タイマーズトリビュートを軸に3日を通すという趣向だそうです。タイムテーブルには2日目のエセタイマーズが明記されていますが、他の出演者もザ・タイマーズの曲を演奏する予定とのこと。
「自由な音楽の場があることは、自由に考えて発言する場があるということでもある」。このような「自由」を体現するアーティストはたくさんいますが、国内のエネルギー問題といえばザ・タイマーズは外せないですよね。ライブもとても楽しみです。
トークの初日は、いつもの津田大介さん、新潟県中越地震の対応で知られる元新潟県知事泉田裕彦さん、グループ魂やNumber the.の富澤タクさんの3人でスタートしました。「国政に出るのでは」ともささやかれている泉田さんがイベントに出るとあって、バックヤードには取材がたくさん来ていたとのこと。しかし、そのような大手マスコミに向けた政治的な言葉ではなく、個人としての「本当の言葉」2が会場に向けてたくさん発せられる時間となりました。
震災から6年経って「原発の新設や再稼働などの動きを見ると、風化しつつあるように見える」との津田さんの投げかけに対して「痛みを個人に押し付けている」と泉田さん。生活に影響が出ているのは個人なのに、それをすくいあげる社会制度を国も行政も準備できていない点が大きな問題であり「生活に影響が実際に出ているにも関わらず、個人が疎外されている」と話していました。富澤さんは「被災経験や震災そのものについて、冷静に考えられるようになるまで4年かかった」と話し、体調不良をはじめとした様々な生活への影響から自分も家族も脱していないとの経験を語ってくれました。「このような大きな体験をした後、そのこと自体に個人的に向き合い続けるのも実際にはつらい」という発言に経験者ならでは重さがこもっています。
「他ではなかなかしにくい話」として泉田さんが取り上げたのは原子力発電所の安全保障としての側面。エネルギー問題として飲み取り上げられがちな原発ですが、軍備や経済に注目することで右派左派をに超えて政治的なコンセンサスにたどり着けるのではないかと話していました。アーティストの出演が多いアトミックカフェはエネルギー問題のエモーショナルな面が強調されがちですが、これらのテーマについてもしっかり考えていく必要があると気づかされました。
福島県いわき市出身の富澤さんは、ほぼ全域が「帰還困難区域」となっている双葉町にご家族が住んでいたとのこと。震災と復興、その中で日々営まれている生活について、実のこもった話を訥々としていました。「少し話が飛んでいると思われるかもしれませんが」と前置きをして富澤さんが語ったのは「人類とエネルギー」という大きな問題。「原子力という新しい技術に人類全体がどのように向き合うのかは、1000年単位の長いスパンでの課題になるのではないか」との投げかけは、泉田さんの政治的視点とは違う角度のリアリティがあるように感じられました。
トークの締めで出されたのは「本当のことを怖れずに言う力が大切だ」という論点。行政や政治家はもちろん、イベンターやミュージシャンが動くことができるのは周囲からの後押しがあってのものです。「関心があるテーマについて一人一人が声を出すことがまずは基盤となるという」点が改めて確認されました。
イベント冒頭から降り出した雨がどんどん強くなり、本日一番の豪雨となった今日のアトミックカフェ。しかし途中で去る人は少なく、多くの人が最後まで言葉に聞き入っていました。