APHEX TWIN
ラスボス降臨 たたかう? にげる? →おどる!
1日中雨が降り続いた2日目のフジロック。夜の21時にもなると濡れた身体が冷えて肌寒くなってくる。グリーンステージのトリに残されたのは、変態と名高いリチャード・D・ジェームズことエイフェックス・ツイン。人々は愛情をこめてエイフェックスを変態と呼んでいるだけなのだが、その真意を掘り下げてみると、こうも際立つ才能を持つ人に対して私たちはもはや“変態”としか表現できなくなるものなのかもしれない。そして1日中雨に降られ、疲れた身体でグリーンのぬかるみに立っているのは、ひとえにその変態を目撃するためなのだ。
エイフェックス・ツインは、90年代にアーティスト性の高い作品を次々にリリースして音楽界に旋風を巻き起こしたテクノビーストだ。彼の作る音楽はもちろん、特に90年代後半はビジュアル面でも奇をてらうような表現で独自の地位を築いていた。しかし2001年以降ほぼ沈黙。もうアルバムは出ないのでは?とまで囁かれていたが、2013年に突如アルバム『Syro』をリリースして復活したのである。そして今年、伝説の第一回以来20年ぶりにフジロックに出演するときたら、この機会を見逃すわけにはいかない。
21時ちょうどにグリーンステージが暗転し、エイフェックス仕様のVJが浮かび上がった。ステージ上には大きなDJブースに加え、大小のスクリーンがいくつも設置されている。大歓声が沸き起こるなか、エイフェックスがビートをドロップした。時に凶暴性のあるノイズやブレイクを交えながらも、一貫して突き進んでいくエイフェックス印のテクノミュージック。初めてエイフェックスのライヴを見るので、どれだけ変態か、ということばかりに期待していたけれど、彼のパフォーマンスを聴いていて感じたのはむしろエイフェックスが孤高に突き詰めていった音の美学だった。彼が次から次へ音楽をつむいでいくスタイルには、確実に美しさがあった。
とはいえ変態性を感じなかったわけではない。第一に、最大の“見”どころであった爆笑VJの数々は、エイフェックスらしい変態さがつまっていた。はじめはフジロックの観客たちを撮った映像がそのままスクリーンに映っていたのだが、次第にエフェクトがかかり、観客の顔がアプリのSNOW よろしくエイフェックスの顔に変わって笑いが起こる。続けて、悪巧みをしているようなエイフェックスの不気味な笑顔がついた着ぐるみのグラフィックが映し出された。ブレイクダンスを踊る着ぐるみは、ふなっしー、ハローキティ、妖怪ウォッチのジバニャン、ドラえもん、ピカチュー、しまじろう、トトロ、アンパンマン、と日本が誇るアニメキャラたちに次々と姿を変えて、観客のテンションをさらに上げていく。
そしてVJ面で最大の盛り場を見せたのは、『Syro』のイメージビジュアルを応用したコラ画像シリーズだ。最初はゴリラズ、ロード、ビョークなど今年のフジロック出演者たちの顔が弄られていたのが、次第にビートたけし、マツコデラックス、イチロー、美輪明宏など日本の有名人・芸能人の顔がエイフェックス仕様になり、爆笑を抑えられない。一番大きな歓声が上がったのは号泣が話題となった野々村議員や、2017年時の人となった松居一代だった。完全に日本向けに作られたその映像は、観客のハートをがっちりつかんでいた。
ラスト15分くらいになると俄然BPMが上がり、これまでのプレイというか、全てを破壊しにかかるような怒涛のノイズ&ブレイクビーツを繰り出し始めたエイフェックス。ゆらゆら揺れながら踊っていた観客も、もはや手を突き上げて笑うしかない、といった感じで全身にその轟音ビートを浴びていた。始まった時と同じようにズーンとセットが終了。ラストに向けてステージから放出された凄みのあるサウンドには、呆然と立ち尽くすしかなかった。まさに誰も倒すことのできないラスボスが降臨したグリーンステージ。期待通り、いや期待以上に圧巻なパフォーマンスだった。