H ZETTRIO
パーカッシブなピアノに秘めた演奏家の魂
前夜祭の口火を切ったアクトで、初見のオーディエンスも笑顔と興奮の渦に巻き込んだH ZETTRIO。本ステージ出演は2014年の当時はまだあったオレンジコートの朝一にも関わらず熱狂のステージを見せ、H ZETT M(Pf、Key)の重力に逆らうようなジャンピング奏法の写真を記憶している人もいるんじゃないだろうか。しかし今日のホワイトは前夜祭でロックされた人、青く鼻を塗った「H ZETT M女子」の皆さん、小沢健二を待つ人などなどがホワイトにワラワラ詰め掛けた様子。
登場一番、キーボードにかけてあった雨よけを華麗にはらい、ターザンのような雄叫びをあげながら“Next Step”で疾走感溢れるスタート。爆音、轟音、重低音のイメージが強いホワイトだが、生楽器寄りのアンサンブルも心地よい出音だ。しかも上方のビジョンでメンバーの真剣な表情が見られるのもいい。今更ながらKORGのキーボード一台とH ZETT NIREのウッドベース、これまたシンプルなセッティングのH ZETT KOUのドラムのみとは思えない、畳み掛けるような音の渦がすごい。曲にもよるが全員がパーカッシブで、メロディの中にも打撃感が強い演奏が腰を揺らし、ステップを踏ませる。1stブロックの3曲はBPMも速く、まずは昼前のホワイトを踊らせようという印象。
「フジロック!出れて嬉しい!いい天気!」と、小雨か薄曇りで推移する空を仰いで、H ZETT Mのエンジンが加速する。H ZETT KOUと「あれやっちゃいますか?」と、表拍をバンドのコード、裏拍をオーディエンスのクラップでさながら音のコール&レスポンスを楽しむ“Neo Japanesque“。H ZETT Mがショルキーに持ち替えてギターさながらの奏法を見せ、H ZETT NIREはサンバテイストのリフを弾く“Get Happy!”を経て、再び“Neo Japanesque”に戻るメドレーもご機嫌だ。ビジョンに映し出されたH ZETT Mのショルキーに貼られた勘亭流文字の「指物師」のステッカーを見逃しませんでしたよ(笑)。まぁ意味がちょっと違うけど、指のアーティストですよねっ。
若干、雨脚が強まる中、「フジロックの空に捧げます!」と、PE’Zへのオマージュカバーである“晴天-Hale Sola-“が願いとなって山々に響き、前方はジャンプして応えるファン多数。終盤はさらにパーカッシブな曲が続き、アホみたいな感想だが人間が全感覚と技術を使って楽器を鳴らすことの楽しさと可能性を再認識してしまった。特に鍵盤弾きの経験がある人はプレーヤー魂に火をつけられたことは間違いない。帰宅したらまず楽器を弾いてしまいそうな、直接的な影響力もこのトリオの魅力の一つだろう。人がいて、音を出し、合奏し、それに反応する人がいる。彼らの演奏は超高度ではあるけれど、そんなシンプルな真理に触れた時間だった。