LIVE REPORT GYPSY AVALON 7/29 SAT

ヒグチアイ

小雨が降るやや強まる中で、3ピース編成バンドで登場。ひらひらとした白くキュートなポンチョ姿で電子ピアノの前に座るヒグチアイ。両サイドには空間系のペダルを並べたエレキギター、コンガやカホンやタムなどの低音主体のパーカッションセット。静かな鍵盤の調べがジプシー・アヴァロンにいた聴衆を釘付けにして、息を呑ませる。“まっすぐ”という力強いバラードは弾き語りスタイルから徐々に気がつけば透明な声と共にバンドのアンサンブルが侵入して感動的に重なっていた。2曲目には高速アルペジオでトップギアに入れる爽快な楽曲“朝に夢を託した”。高らかなコーラス部分がひたすら心地よく、日本語の魅力を存分に味わえつつもJ-POPの枠には収まりきらない大陸的な風情が楽曲やサウンドにあり、バンドとしてのまとまりを感じさせるステージングを披露していた。

曲を終え、鼻歌交じりに「ふじろ〜っく」と軽くコール&レスポンス。雨の中で真剣に耳を傾けるリスナーを労いつつ和ませるのもとても好印象。「香川県出身、長野育ち、東京都在住のシンガーソングライターです」と自己紹介もなんら機を衒うこともなく自然体でMCを試みる彼女に、これまた自然に道ゆく人たちがリスナーと変化していく。3曲目には高らかなカウベルが打ち鳴らされつつ、セリフ調の歌詞がキャッチーな最新e.p.からタイトル曲、“猛暑です”を披露。「独特な世界観」と、妙に癖のあるリアルさが耳を惹きつけて離さない、言葉、言葉、言葉。思わず撮影していたカメラマンも泣いていたのはここだけの話である。

4曲目はヒグチアイ自らタイトルコールした“南風”。この曲ではギタリストの女性がエレキギターからアコギに持ち替えた。パーカッショニストの軽やかなタンバリンさばきと、哀愁漂う歌詞がすっと聴く側の懐に潜り込んでしっとりと。かと思えばMVにもなっている“ココロジェリーフィッシュ”では高まる感情とともに上ずる歌声がエモーションを隠すことなく露わとなっていた。続く“黒い影”ではイントロから激しい5拍子でスタートし、テンションをキープしたまま突き刺すようなフレーズがワルツ調となって加速をやめない。

何より印象的だったのは曲終わりのMC。「優しいフェスですね。インドアな私でも(フジロックには)居場所がある。今日は歌が届くところまで包み込めたらいいなと思って歌いにきました!」という真っ直ぐな語り。やはり全然奇を衒うことがない。だけど十二分に個性と、個性に裏打ちされた高い実力を発揮する彼女。

最後には「備忘録」という代表曲で締めくくる。中島みゆきなどを引き合いに出されるかもしれないが、筆者はフィオナ・アップルなど心をえぐりながら掴んでくるシンガーソングライターをも彷彿とした。洋邦問わず様々なアーティストからの影響を感じさせる。何よりリズム感が全編に渡って素晴らしく、歌声のコントロールやエモーションに匹敵する鍛えられた音楽をフジロックのステージでは存分に味わえる45分ほどの豊かな短編の物語集。今後に注目のシンガーソングライターに間違いない。

 Photo by Sayaka Yuki  Text by 田畑“10”猛 Posted on 2017.7.29 13:00