アトミック・カフェ トーク 【津田大介・佐藤タイジ・坂口恭平】
経験しないとわからない面白さがあります
最終日となったアトミックカフェ。オフィシャルに名前が出ていなかったSpecial Guestは『独立国家のつくりかた』や『モバイルハウス 三万円で家をつくる』で知られる坂口恭平さんでした。もう一人のゲストは、アトミックカフェではおなじみの佐藤タイジさん。THEATRE BROOKのギター&ボーカルとしては改めて紹介する必要もないタイジさんですが、ソーラーエネルギーを活用したロックフェス中津川 THE SOLAR BUDOKANを開催するなど、ミュージシャンの立場からエネルギー問題について取り組んでいる方でもあります。初対面だという二人の話はどのような展開をみせるのか。期待する中でトークがスタートしました。
「共謀罪でしょう?」との発言を皮切りに「ずっと盗聴されているんだよね」といきなりカミングアウトした坂口さん。勘違いとも事実とも判断しにくい大爆弾が投下されてたじろぐ場内ですが、独立国家を宣言して「反社会的」と判断されうる思想を公言しているだけに事実無根とは言い切れないのが、残念ながら日本の現状なのです。突っ込むのも野暮だし、話に乗ったとしてもどうすれば良いのかわからない。ギリギリとセーフの境界を消失させる坂口さんのトークは本当に魅力的で、現在の日本社会の異常さを躊躇なく暴いていく彼の話ぶりに客席がどんどん魅了されていきます。
一方のタイジさんは、2021年以降の日本を展望するトピックであるオリンピックについて「最初のオリンピックは登山オリンピック」だったと語ります。それは言ってみれば、高度経済成長期で経済的にも上り坂だった当時の日本は、近代国家としてどこまで「成長」できるのかを確かめる時代にあったとの事実の反映と言えるでしょう。これに対し、次のオリンピックは「本当に必要なものは何かを考える、下山オリンピック」だとタイジさんは語ります。経済の停滞や少子高齢化を視野に入れ、何を捨て何を選ぶかを決めていく過程を象徴するのが次のオリンピックだとの話に、会場は熱心に聞き入っていました。しかし、このような要約がバカバカしくなるほどトークが盛り上がり、坂口さんとタイジさんの存在自体が新しい展望を示しているように思います。レポートでこのようなことを書くのは禁じ手ですが、「経験しないとわからない面白さがあります」との言葉で締めざるを得ない前代未聞のトークとなりました。
環境問題にコミットしている運動家やミュージシャン、政治よりの言論人のブッキングが多かったこれまでのアトミックカフェですが、なるほど坂口さんと来たか…と思った人も多いのではないでしょうか。昨日はゲストの有無すら告知されておらず、「まさか津田さんの一人トーク?」と思いきや後藤正文さんが登場して驚かされました。来年のアトミックカフェも本当に楽しみです。