あまたのフジ出演者が憧れるアーティスト
スカのレジェンドたちが続々と鬼籍に入るなか、未だに衰えを知らないのがフレデリック”トゥーツ”ヒバートだ。彼がジャマイカに及ぼした影響は計りしれず、一節によると、「レゲエ」という名前そのものも、彼の”Do The Reggay”という曲タイトルからつけられたといわれる。
スカ/レゲエ好きの中で、フジロックに来ると噂になっていたレジェンドが、新譜をリリースしたばかりのJimmy Cliffと、TOOTS AND THE MAYTALSだった。トゥーツとなったのは、一昨年のグラストンバリーにて、みなぎるライヴを披露していたことが大きかったのだろう。
SEが”Pressure Drop”なら、一曲目もそれ。フジロックの精神ともいえるジョー・ストラマーが、The Clash時代にカバーした楽曲だ。いきなりの名曲に、オーディエンスのテンションは一気に上りつめつつあったが、彼のレパートリーを思えば、まだまだ序の口といえる。この先には、夢にまでみた名曲たちが、トゥーツの底知れぬエネルギーとともに繰り出されることになるのだ。
トゥーツは、レジェンドたちよりひと世代下とはいえ齢66歳である。なのに、肌は黒々として艶があり、筋肉隆々、落ち着きはらうどころか、ステージを縦横無尽に駆ける。他のメンバーも、がっしりとした体格で贅肉がないため、揃って若々しい印象だった。コーラスの女性2人には、特にみずみずしさがあったように思う。トゥーツ自身の声も、少々かすれたり鼻にかかる独特な感じは、かつての音源とほとんど変わらない。驚くべきは、それらの音源が、およそ35年前のものだということだ。
ドラムと、5弦ベースより繰り出される強烈なリズムに、キーボードと、2本のギターが着色してゆく。時に、トゥーツ自らが重いアコースティックギターをかきならして、オーディエンスの反応を覗きこんでいた。
おそらくは、かなりの出演者が、ヘブンないしグリーンで、トゥーツのステージを見たのではないだろうか。今回披露されたスカ時代の名曲”Monkey Man”は、今年の出演者の中で思い当たるだけでも4組、The SpecialsやThe Trojans、Cool Wise Manといったスカ勢はもちろんのこと、Che Sudakaのレオ&カチャによる、Los Hermanos Macanaもレパートリーのひとつとしていたはずだ。
他にも、スカからレゲエへと移り変わった70年代の作品『Funky Kingston』と『In The Dark』の中から、元はロックンロールの”Louie Louie”や、白人文化の中で生まれた”(Take Me Home,) Country Road”といったカバーを披露していく。特に、”Country Road”は、その内容を今の日本とかさね、感じ入ってしまうという人もいたようだ。
アンコールでは、自らの囚人番号をタイトルとした”54-46 Was My Number”がついに始まった。ブレイクでの「give it to me, one time!」からショット1発、「two times!!」ならば2発…といった具合に、お手本のようなコール&レスポンスを展開し、これ以上ないといえるほどエンターテインメントだったが、その裏側にはしっかりとした「反発」が根を張っている。夜中のヘブンは、トゥーツというレジェンドの熱気で、いつまでも冷えることはなかった。
TOOTS AND THE MAYTALS
写真:北村勇祐 文:西野太生輝