うたのすずしげ、技巧のアツさ
じわりとしたあつさ、ときおり届く涼やかさ。彼らのステージを思い出すと、その時間を過ごした気温や湿気までもがありありと浮かんでくる。こんな”あとから見えてくる”系のライブっていうのは、名演のうちに入るんじゃないだろうか。
そろそろ雨でもいいかな…なんて期待を裏切られた灼熱の3日目、ボードウォーク使えば良かったな…と後悔するような暑さの下、Orquesta Libreの時間は始まった。ROVO等のドラマー・芳垣安洋を中心に昨年から活動しているという同プロジェクトは、金管楽器中心の前列とそれ以外のメンバーの後列という2列10名の大所帯でステージに上った。鳴らされるのは「自由の楽団」という名の通り。楽曲に関係なく各々のテクニックが、奔放と呼ぶギリギリ手前で現れるような音だ。
開始から15分あまりで、本日のシンガー・おおはた雄一が登場。スタートから抜け目ない濃度の音に、すうっと深呼吸をしたようなさわやかさが加わる。オーケストラの中央を陣取らず、バンドから一寸離れた舞台横というおおはたの位置のごとく、個性の集団と対を成す音のバランスだ。
それからのサウンドは、この2つの個性によって素材の名曲を料理する格好となる。ムッシュかまやつ”ゴロワーズを吸ったことがあるかい”は「不良少年の今昔物語」といった歌をおおはたがクールに歌いあげてカバーしたかと思えば、続く”オー・シャンゼリゼ”は踊り出しそうな軽やかさを芳垣を中心としたオーケストラの面々がインプロヴィゼーションを成して音を混沌へと誘い込んだ。単なる”癒し”にもならなければ、アヴァンギャルドな特徴の披露宴にも行き過ぎないという絶妙なバランスが、つまりは心地よい。”Purple Haze”のカバーの適度な煙たさは、原曲とは別ものながら独特の不穏さを持っており、オリジナルのように奏でられた。
ラストはBob Dylanの”I Shall Be Released”の邦訳カバー。Orchesta Libreの新譜『うたのかたち』という言葉の指す通り、おおはたによる詞の響きを10人が味付けることでうたをかたどっていく、という最良の形でステージは終わった。
ORQUESTA LIBRE with おおはた雄一
写真:平川けいこ 文:ryoji