苗場の森に舞い降りた、美しき妖精
フェスティバルでの悩ましい問題といえば、アーティストの出演時間の被りである。気になるアーティストが被った時の言いようのない気持ちは、フジロッカーのみなさんならお分かりいただけるだろう。この時間帯はそんな難問に答えをだすのが難しく、このオレンジステージのYAEL NAIMに始まり、レッドはMICHAEL KIWANUKA、グリーンは井上陽水、ヘブンは加藤登紀子…誰のライヴを観るのか、当日まで頭を悩ませた人も多いのではないだろうか。
オレンジコートには炎天下にもかかわらず、YAEL NAIMを観るために、たくさんのお客さんが詰めかけていた。ステージの転換時、ヤエル本人も登場してサウンドチェックを行なっているため、お客さんが前にぎっしりと詰めかけている。「また、後でね!」とヤエルが準備を終えていったん舞台袖に下がる。さぁ、いよいよ、苗場の地でヤエルの透き通った声を聴ける瞬間がやってくる。
盛大な拍手をうけながら、ヤエルが登場してピアノに座る。1曲目に演奏されたのは “My Dreams”だ。サポートメンバーはドラムとベースの2人だけなので、CDよりもシンプルなサウンドに削ぎ落されていて、一音一音を堪能できるアレンジになっている。2曲目にはRIAHNNAの“Umbrella”をカバー。ヤエルのしっとりとした声がオレンジコートを包み込む。この時だけ、雨が降ってくれればさらによくなったかも…。
MCでは「フジロックに来るのは初めて。とても美しい場所ね」と笑顔で話す。「次の曲は、私のパーソナルストーリーを綴った曲で、私の両親に捧げるわ」と言って“Come Home”を力強く歌い上げる。さらに、お客さんと歌詞の「come home come home」の部分をシンガロング。これがとっても面白くて、お客さんを左側、中央、右側と位置で区切って、歌わせるパートを分ける徹底ぶり。お客さんとヤエルの4重奏がオレンジコートに響きわたった。
サポートの2人がいったん下がって、「次もまたhomeに関する曲なのだけれども」と自身が普段生活をする街の名前がタイトルに付けられた、“Paris”をアコギで弾き語り。「ギターをチューニングするから少し待ってね」と少しお客さんに待ってもらい、“Far Far”を艷やかでありながらもパワフルに歌いあげた。ライヴを観ていてやはり思うのが、艷やかで力強いという二面性をもつ彼女の声はやはり唯一不二ということ。
メンバー紹介のMCを挟んだ後に披露された “Go to the River”では、前半はジャズ風に後半はラテンのノリを加えて演奏し、1曲の中でなんでもやってのけてしまう彼女の才能に脱帽。“Mystical Love”や“Too Long”もアレンジを大胆に施し、ライヴならではの曲に変わっている。さらにはBRITNEY SPEARSのカバー曲、“Toxic”まで披露!
ヤエルが「観に来てくれてありがとう。フジ!」と感謝を述べ、“New Soul”のピアノのイントロが流れだすと、みんな大盛り上がりに。「la-la-la-la-la-la-la-la…」とみんなで歌って、会場がひとつになった瞬間には、オレンジコートに魔法がかかっていた。これぞ、フジロックマジック!オレンジコートに来て大正解!
YAEL NAIM
写真:平川けいこ/文:小川泰明