俺のベストが見たいって?まだまだだね。
いつだったかは定かではないが、けっこう最近だと思う。インタヴューでそう語っていたのがブルース界の巨匠、バディ・ガイ。これは最新作『リヴィング・プルーフ』に極めて高い評価が与えられたことに対して、「まだ74歳の若造の俺はまだまだ進化している」と言わんとしたんだろう。
そのアルバム発表を受けて、フジロック出演が決まったのが昨年。大いに楽しみにしていたのだが、それが体調不良を理由にドタキャンとなって、いわば1年越しにやっと実現したフジロックでの巨匠ということになる。前作『Skin Deep』を発表した08年、イギリスのグラストンバリーで見ているんだが、そのときと同じく、まずは4ピースのバックが登場して、それから御大が姿を見せるという始まりだった。
このライヴの翌々日には76歳の誕生日を迎えるはずなんだが、ステージの彼にその年齢は全く感じさせない。張りのある声はあくまでソウルフルで、ギターに関して言うなら、語る言葉がない。唖然、呆然、素晴らしすぎるというか… 時折、バックの若者とのギター・バトル的な様相を見せてくれるんだが、当然、勝負にはならない。どこかで「教科書で勉強しました」的な若者を雇っているのはこういった『違い』を見せつけるための演出ではないんだろうかと思えるほどだ。
マディ・ウォーターズの名曲、「フーチー・クーチー・マン」をカバーしていたときだったか、時折マイクからはなれて、地声で歌ったり… 繊細なギターのソロやキーボードとの掛け合いがあったのだが、この頃から、うるさいほどに聞こえてきたのがフィールオブヘブンの音。その度にバディの表情が曇るのが見て取れる。しかも、隣の音に合わせて演奏するような離れ業も見せつつ、ついに御大は「セット・リストなんて忘れちまえ」という言葉を吐いて、見せ物的なエンターテインメント路線で演奏を始めていた。
百戦錬磨といっていいほどの場数を踏んでいるアーティストだからなんだろう、客をわかせることかけてはお手の物。エリック・クラプトンは、ジミ・ヘンドリックスは… と、彼に影響を受けたギタリストたちのスタイルを手玉に取ってショー的な演奏でオーディエンスを盛り上げていく。ジョン・ハイアットのカバー、「フィール・ライク・レイン」も聞くことができたし、クリームの「サンシャイン・オヴ・ラヴ」が飛び出してきたり… おそらく、オーディエンスにとって、それは楽しい演奏だったんだろう。多くの人々が「さすが伝説」と好意的な反応を見せている。
が、もし、隣の音があれほどうるさくなければどうなっていたんだろう?バディ・ガイが考えていたセット・リストで演奏できていたら、どれほど彼の神髄を体験できたんだろうかと思いを巡らすと、このライヴを手放しで喜ぶことはできない。確かに、こんな状況でバディ・ガイのベストのベストを体験することはできないんだろうと、実に複雑な気分になったのがこのライヴだった。
BUDDY GUY
写真:岡村直昭 文:花房浩一