天気予報が外れ、天国のスタートに相応しく、青空の下に始まりを迎えた。ステージの装飾は繋ぎ合わされた流木がモチーフとなっており、まわりを囲む木々によく馴染んでいる。ヘブンを彩るのは、装飾ばかりではない。フジロックの初めの待ち合わせをここに選んだ人が友人との再会に喜ぶ姿、流れてくる音楽を口ずさむ姿、ぬかるんだ柔らかい地面を楽しげに歩く姿には何ともいえない幸せが感じられる。ただいま、フィールド・オブ・ヘブン!今年もまた入り浸ってしまいそうだ。
新譜の「凪」からの”うぶごえ”によってキセルは天国の扉を叩いた。奥地ということで、始まる前はまばらに見えた客入りだったが、音に呼び寄せられるかのようにじわじわと人が集まってくる。京都出身の彼ら。2曲目”タワー”は京都タワーを囲み、平坦に広がる街の風景が浮かび上がるようだ。ここフィールド・オブ・ヘブンでは兄・豪文の伸びやかなボーカルとそれに添える弟・友晴のハーモニーがしゃぼん玉と時折そよぐ涼しげな風とともに我々の頭上を浮遊していた。
「おはようございます。ありがとう。」キセルのMCは普段のライブと同じくとても少ない。初めてフジロックに出演した時と同じステージ、同じくらいの時間の出演に「帰って来れてよかった。」と友晴の曲”ひみつ”が始まる。ギター、ベース、ドラム、キーボードとシンプルな編成ながらも、聞こえてくる音には淡い色のついた風景が見える。”ギンヤンマ”を終えると、ラストは兄弟2人のみの演奏に。音数が減っても尚、彼らの描く風景はどこまでも広がり、終演後も静かな余韻を残していた。
写真:佐俣美幸
文:千葉原宏美