スカ・フレイムス大川毅からのバトンを引き継いだのは、キティ・デイジー&ルイス。メンバーはすべて家族という驚きのバンドだ。特に有名なのが、ラフ・トレード(※イギリスのレーベル)が送り出したザ・レインコーツのメンバーとして活動していた、母、イングリッド・ワイス。ザ・レインコーツは、パンク以降の音楽シーンに多大な影響を及ぼし、ジョン・ライドン(ジョニー・ロットン)、カート・コバーン、キム・ゴードンが絶賛していたバンドで、そのフォロワーは多い。さらには、親父はアイランド(※レーベル)でU2などに関わってきたグリーム・ダラムというから、子供たちが音楽にドップリ浸かり、アーティストとなるのも無理はない。
特に面白い…というか驚くのが、息子と娘たちが20歳そこそこの若さでありながら、旧き良き半世紀以上前の音楽やプレイスタイルを当時の感覚のままにステージにもちこんでいることだ。それは、音源の段階でも徹底されている。何と、LP以前のプレート、SP盤をプレスしているのだ。昔のミュージシャンが新しい曲をつくったなら、きっとこんな曲をつくっただろう…そう思わずにいられないモノクロの世界の音が、目の前で奏でられ、隠された色を伝えてくれている。日本の年号に置き換えると、KD&Lの凄さや、怖さが伝わるだろうか。「平成生まれ」のルイスが、祖父母の青春時代の音楽をやっているのだ。
キティ、デイジー、ルイスの3人が、曲ごとにパートを変える。バンジョーにブルース・ハープ、ドラムにギターと、トライアングルの配置がころころ変わるのだ。両脇の親が支え、子供が自由自在に楽器を操っては遊び倒すという状況に、満員となったテントの温度は上がり続けていた。
マディ・ウォーターズだけでなく、60年代に活躍したキャンド・ヒート(※トミー・ジョンスンの曲からつけたバンド名)の”ゴーイング・アップ・ザ・カントリー”を渋くアレンジし、我がものとしている。中盤には、ビートルズ、ローリング・ストーンズの作品に参加し、ジミ・ヘンドリクスのルームメイト(!)だったこともある、スカ・レジェンドのひとり、エディ・”タンタン”・ソーントンがトランペットを携えて乱入すれば、一気にカリブ周辺諸国の匂いが充満した。
黒いアメリカを基本としながら、ジャマイカへと針を振る柔軟さまで身につけたのは、ギャズとの関わりによるものだろう。スカ創世記のバンドは、もともとホテルでジャズを奏でるオーケストラだったそうだ。キティ・デイジー&ルイスの若さからくる冒険心は、これから先、世界各国の様々な音楽を吸収していくことだろう。
写真:佐俣美幸
文:西野太生輝
JVC Cheers Neo with Chata & Miwa, presented by JVC Force TYO |