「だんだん親父に似てきたな~。」
これは以前、テレビのお笑い番組でダウンタウンの松本人志が見せた小ネタの一言だ。フジロック初日、午後のフィールド・オブ・ヘブンに集まった人々の多くが、ステージ上の彼を見て、こうつぶやいたに違いない。
ドゥイージル・ザッパ。今は亡きアメリカ出身の奇才(変態?)超絶ギタリスト、フランク・ザッパのご子息である。ジュニアである。そのジュニアが父の遺した楽曲を演奏してみせるのが「DWEEZIL ZAPPA PLAYS ZAPPA」だ。活動を始めた当初のライヴでは父が育てた(と言っても良いのでは)ギタリスト、スティーヴ・ヴァイをゲストミュージシャンとして迎えたり、ステージにスクリーンを設置して父の演奏姿を映し、親子が競演しているかのような演出が施されていた。
そして去年、二度目の来日での事。直前に起こったライヴメンバーの脱退劇で結果的にバンドも演出もグッとシンプルでタイトになった「DWEEZIL ZAPPA PLAYS ZAPPA」のライヴ。実はこれが大変に充実したものだったらしいのである。前置きが長くなってしまったけれど、という訳で否応もなくフジのステージにも期待が膨らむのだ。
サウンドチェックに現れたジュニア、なかなかの爽メン(注:爽やかなメンズ)である。優しげにお客さんに手を振る姿は、歯に衣着せぬ怪人オーラ(良い意味です)漂うお父君に比べて、ぐっと湿度低めといった感じ。しかし、いったんギターを手に取ると、午後を楽しむお客さんの注目を一気に集めてしまった。
「コンニチハー。」そう言ってお客さんに手拍子を促し、爽やかに弾き始めた姿とはうらはらに、ジュニアってば超絶ギターである。ジュニアを核にして渦巻くグルーヴ恐るべし。ステージ上のムサくるし……じゃなくて(失礼!)素敵なオジ様バンドの中に混じった紅一点、シーラ・ゴンザレスは”インカ・ローズ”ではフルート、その他サックス、キーボード、コーラスと大活躍。いかにも楽しそうに演奏して見えるのだけれど、スゴ技じゃないの、これは。いや、スゴ技とは本来そういうものなのかも知れない。
ライヴ中盤、客席の中に知った顔を見つけた!といった表情をしたジュニア。「カムオン、ステージ!」と客席から誘い出してみれば、お客さん、リコーダー片手。しかもステージ上でジュニアに促されるままにリコーダーで華麗な演奏を開始するではないか!さらに絶妙の間でバンドが競演してくれている。実は先だって行われたジャパン・ツアー東京公演で、終演後に何故かリコーダーを吹いているお客さんがいる事を知って、ジュニアが競演したかったらしいのだ。「トテモ、スバラシイデス」と言いながら握手を交わすジュニアと幸運なお客さんに、客席からも大歓声が上がった。
ライヴ中に降り始めた雨が、どんどん勢いを増して来ていた。でもさすがフジロックのお客さん。速やかに雨装備にチェンジし、終盤の”ホット・ラッツ”の辺りではむしろ大雨の中、大盛り上がり。演奏が素晴らしいからなのか、オレンジ・コートに集うお客さんが雨さえも楽しめるツワモノ揃いだからなのか。きっと、両方なんだろうな。
終演後ふとステージ・セットを見ると、「聖糞」と漢字で書かれた表札が掲げられていた。なんだそりゃー!! そして再びこう思ったのだった。「だんだん親父に、似てきたな~」。
写真:熊沢泉
文:小田葉子