ここは苗場でも地球でもなく別世界だった。
降り続ける雨は、オレンジコートを沼地にしてしまい、長靴でないと容易に歩くこともできないくらいになっていた。こうした最悪な状況で、気軽な一見さんを寄せ付けず、フジロックの奥地まで辿りついたのは勇者のみだ、といいたくなるくらいだった。たくさん人が集まっているとは言い難いけれども、それなりの人数がステージ前でスタンバイしている。
「ロック」という言葉が「岩」を意味するのなら、マグマを率いるリーダーであり、ドラマー&ヴォーカリストであるクリスチャン・ヴァンデこそ「岩」を体現しているといえる。その体の大きさ、年を重ねごつごつとした感触、ドラミングおよびヴォーカルの迫力、どれをとっても巨大な岩を想起させるのだ。リアル・ロッカー。そもそも、「マグマ」が地上に現れ、地表の空気や水で冷却され固まったのが岩であるわけだから、すべては必然でつながっている。
そして、この日のライヴは、とんでもないマグマが大噴出して、その勢いで我々をどこか別の世界に連れていったかのようなすさまじいものだった。彼らのライヴはコバイアという特殊な言語で歌われ、各メンバーがとんでもないテクニックを持つだけでなく、クリスチャン・ヴァンデの大爆発に付き合えるだけの狂気を感じさせるのだ。いろんな人が集まるロックフェスを意識したのか、ストレートなロックを感じさせるように、ほんのちょっとわかりやすくなっているところもあるにはあったけど、やっぱり複雑な演奏が絡み合い、男女混声合唱隊のような3人のヴォーカリストが架空の言語で歌い上げ、そのメンバー演奏と歌が混然一体となった迫力はとんでもなかった。
普段我々が感じている世界の他に、強烈な別世界があることを表現するために言葉(歌詞)や映像などの助けを借りるバンドは多いけれども、演奏だけでそれを提示するバンドはマグマの他ない、ということを実感させられた。ラスト近くでイザベルが急に飛び込んできた虫に驚いて軽い悲鳴を上げたのが野外ならではのハプニングだったけど、それ以外は完璧。どれぐらいいるかわからないけど、予備知識なしでマグマを観た人にも十分に強烈なインパクトを与えられたと思う。もしかしたら、「ジャム系のバンドやROVOあたりがフジロックではOKだからマグマも意外と行けるかも」なんていう理由でブッキングされたのかもしれない。来ているお客さんでジャム系バンドのノリで踊っている人もいたから、ファン層の拡大につながったかも。終わった後の熱心な拍手が物語っていた。
写真:熊沢泉
文:イケダノブユキ