エイプリルフールにはっぴいえんど、センチメンタル・シティ・ロマンス。今ある日本のバンドに大きな影響を与えたバンドに在籍し、現在も活動を……って、これからジプシー・アヴァロンに登場する「小坂忠 with 鈴木茂,中野督夫」の三人について、説明するのも野暮というものか。でも大袈裟では無く、まさに日本のロック・ボーカリストの草分け的な存在と日本のギタリストの最高峰が、そうすぐそこで、競演する事になるのだ。
なんという贅沢! と鼻息荒くアヴァロンへ向かうと、開演前だというのにすでに熱気をはらんだお客さんがステージ前を埋めているのが見えた。それもそのはず、同時にライヴさながらの至福の歌声と演奏が聞こえて来るではないか。
慌ててステージに目を向けると、演奏チェックを行う小坂忠に鈴木茂、中野督夫の姿があった。演奏チェックとは名ばかりな感じで、完全に本編突入といった感じ。
「リハーサルなんだけどね、始まっちゃいましたね。」
そう言いながら小坂が気持ち良さそうにしていると、二人のステージMCが現れた。温度高めの客席の空気に、「若い人が多くて意外!」と、MCの女性が語る。
お言葉ですがお姉さま。音楽は初めて触れた瞬間が、その人にとってのリアルタイム。古いとか新しいなんて時間軸、本当は音楽に必要無いと思うんだな。
そう。音楽を楽しむのにはアカデミックになる必要も無いし、マニアックになる必要だって無い。現にそのまま本編に突入した「小坂忠 with 鈴木茂,中野督夫」のライヴは、心地良いリラックス感に包まれていた。
カーティス・メイフィールドの”ピープル・ゲット・レディ”で始まった演奏はアルバム『HORO』からの選曲はもとより、サッチモの”この素晴らしき世界”のようなカヴァーまで。小坂の深い歌声にデリケートなコーラス・ワーク、鈴木の甘やかなスライドギターの音色。客席も目を瞑って聴き入る人や熱烈なリアクションをステージに送る人とさまざま。客席前方で上がった「やべー!かっけー!」の若い声に、小坂は驚きつつも嬉しそうで、27歳だというお客さんと自然で気さくなやりとりを交わす一幕もあった。
「次は茂ソングです。」と小坂が紹介すると、鈴木が歌う、はっぴいえんどの”花いちもんめ”が披露された。続いて中野がセンチメンタル・シティ・ロマンスの”雨はいつか”を歌う。雨はいつか上がるもの、雲はいつか切れるもの、と続くリフレインを、いつしか客席も一緒になって歌い始めていた。
「これで最後だ!楽しんでくれ!」と小坂が言いながら歌い始めたのは”しらけちまうぜ”。演奏中、不安定な天気が続いた空の雲間が本当に切れ、日差しがステージを照らす光景は、本当に奇跡的ですらあった。
写真:深野輝美
文:小田葉子