フジロック3日目、たくさんのお客さんが来場して大混雑。だけど、トム・ヨークのバンドが本番のときには、みんなグリーン・ステージに集まっていたので、会場のいろんなところ空いていた。そんな中、ジプシー・アヴァロンに登場したのは、エミリン・ミシェルだった。もちろん、満員というわけでもないけど、思ったよりも人が集まってきている。みんなトム・ヨークを観なくていいのか? なんて思ったけど、もしかしたら、同日のCABARET FIESTAや前日オレンジ・コートのライヴを観てもう一回観たいと思った人や噂を聞いてきた人がけっこういたのかもしれない。
エミリン・ミシェルは、ハイチ出身の女性歌手。ハイチといえば、カリブ海に浮かぶ島であり、デュバリエ父子の独裁政権とか今年発生した大地震とかで、非常に混乱し貧窮を極めている国である。彼女は北米を拠点に活動しているらしいが、歌詞はフランス語やクレオール(ハイチの場合はフランス語と現地の言葉が混合したもの)らしい。
アヴァロンの客席エリアは芝生の傾斜があって座ってのんびり観るにはちょうどいいところであるうえに、ステージ前が雨によって足元がぬかるんでいた。なので、始まる前も、始まってからもしばらくは、ほとんどが座って観ている人たちだった。彼女と彼女のバンドが登場する。キーボード、ギター、ドラムス、ベース、パーカッションという編成である。カリブ海らしい陽気でリズミカルな音楽で思わず踊り出しそうだなと思っていると、彼女が「もっと(ステージに)近寄って、近寄って」と英語で話しかけて、お客さんも泥をものともせずに集まってくる。
彼女の音楽には、人を引き寄せる魅力があるのだ。ヴォーカルの存在感は圧倒的で、悲しみも喜びも陽気なリズムに昇華してしまう。いつの間にはステージ前はダンスフロア状態で、ライヴ前から想像もつかないほど人が集まってきた踊っていた。とはいえ、満員というわけではなかったけども、音楽がここまで集めることができるマジックを目撃することができた。ラストで彼女は「アカイカオ~」とコール&レスポンスさせる。それはどうやら彼女のヒット曲”A.K.I.K.O”で、ハイチの発音だと「赤い顔~」と聞こえるのだ。
写真:近澤幸司、文:イケダノブユキ