目で追うことができないほど、予想もしないライヴを繰り広げてくれたMUTEMATH。ニューオリンズ出身の4人組バンドである彼らは、パフォーマンス集団と思えるほど一つひとつの動きがエネルギッシュだった。
元気があり余っている観客たちに応えるかのように、まず鳴らされたのは「The Nerve」。ヴォーカル・キーボードのポール・ミーニーやギターのグレッグ・ヒルも、始めからステージ上で激しく動き回るという勢い。中盤に入ると、静寂を感じる楽曲も。ただ静かな音だとしても、ゆったり聴くということはない。それほど音楽に対する、気迫を感じられるのだ。まるで音や言葉に、力強い生命が吹き込まれているよう。
そしてより一層パワフルになり、機材の上に登り足を広げて飛び降りるなんてことも。さらにはステージに降りて、持っていた手持ちのキーボードを観客に。一瞬一瞬を逃したくないと思ってしまうほど、どの場面をとっても申し分ない。しかしこんなにも度肝を抜かれるとは、思いにもよらなかった。
終盤では、鍵盤を弾きながら逆立ちまでしてしまうヴォーカル・キーボードのポール・ミーニー。一方ではドラムのダレン・キングがスティックを手にし、ステージやスピーカー周辺を歩き始める。そしてあらゆる場所や物を叩き、楽曲に音を加えていく様子。曲の最後の方には、ベースのロイ・ミッチェル・カルデナスがドラムを演奏する一幕も。スタートからラストまで、一切見る側に余裕を与えない時間を届けてくれた。
ひとまずこんなにも心を揺さぶってくれる、ライヴバンドに巡り会えたことがなにより嬉しい。次の日本でのライヴまで、5月に日本盤化として発売されたばかりの『リセット』をもう一度聴き倒そうと思う。まさに、何度でも見に行きたいと思えるようなステージだった。
写真:穂谷益代
文:松坂愛