ライブ前にざっと降り注いだ雨がけだるい湿気を残した昼過ぎのグリーンステージ。最前列では青春時代にクリスピアンに青春を捧げたであろう女子達が、今もその当時と変わらぬ乙女な眼差しでステージを見つめていた。そんな熱い視線の中、クリスピアンは、赤いスキニーパンツに黒いジャケットを羽織り、首にはぐるぐる巻きのストールと、乙女達の夢をいつまでも壊すことがない王子様スタイルで登場。この細さにこの白さ、相変わらず肉は食べていないんだろな。
・・・・・・とゴメンナサイ、どうしてもクリスピアン王子の話題から入ってしまうけれど、これはクリスピアンのソロプロジェクトではなく、あくまでもKULA SHAKERのステージ。ベースはベレー帽にジャケットという紳士スタイルでキメたアロンザ、ドラムはニット帽にハーフパンツというスポーティーなスタイルのポール、キーボードは結成時メンバーであるジェイではなく、太いもみあげに真っ白な服が素敵なヘンリー、という編成だ。
2007年に出演したときと同様に昼間のグリーンステージでの出演となった彼ら。今年のステージには、愛するKULA SHAKERだからこそ、苦言を呈したい。ライブの直後に私の頭の中を巡ったのは、6月にリリースした『Pilgrim’s Progress』のリードトラックである”Peter Pan R.I.P.”だった。この曲に込めた想いについてクリスピアンは、「夢を持たない大人になることは悲しいことだけれど、大人になりきれないピーターパンのような人間もダメだ、そのバランスは難しい」と、そんなことを言っていた。この話はバンドについても当てはまるのではないだろうか。昔の良さを変わらずに保つことと、新たなスタイルを確立すること、そのバランスもまた難しい。だが、ときにはピーターパンを葬る勇気も必要だ。
今回演奏された楽曲は、”Hey Dude”、”303″、”Govinda”と、フジロックを含むこれまでの来日公演では必ず演奏されてきた彼らの定番曲ばかり。『HUSH』のEPに収録されていた”Under the hammer”を演奏するなど往年のファンには嬉しい選曲もあったけれど、新譜からは”Peter Pan R.I.P.”など3曲、再結成後の復帰作となった前作『Strangefolk』からは1曲も演奏されなかった。しかも新譜への観客の反応は、正直寂しいものだった。彼らは通算4枚目となるオリジナルアルバムを出したばかりの“現在進行形”のベテラン・バンドなわけで、極端なことを言えば昔からのライブ定番ソングを封印する潔さもあっていいように思う。このままでは新たなライブ定番ソングは産まれない。いつの日かフジロックでも懐メロバンド的扱いになってしまうんじゃないか・・・・・・なんていうのは私の杞憂だろうか。
たまたま近くで観ていた外国からのお客さんに「Do you know this band? ナツカシイね!」なんて言われちゃって、昔からのファンの私はなんだか悲しかった。”HUSH”の冒頭のかけ声を「イチ、ニ、サン、シ!」と日本語で叫んだり、公開録画でファンからの質問に答えたりと、近年のファンサービス旺盛でお茶目なクリスピアンもいいけれど、ちょっと近寄りがたい雰囲気があったストイックなあなたがちょっぴり懐かしかったりして。うーん、乙女心は複雑。
写真:直田亨
文:本堂清佳