ロックにとっての「垣根」は、昔はルールとか政治とか、社会的なものに対し存在していたように思う。しかし最近では、もっぱら垣根は音楽ジャンルに対して建てられ、そして昔と同じようにその垣根を若き才能が飛び越えていく様を見せているようだ。ロックの名を冠した苗場の夏が音楽の多様性に満ちたものであったり、アメリカから来たこのバンドが、インディーロックのフォーマットでワールドミュージックを取り込んでみたりするように。
さわやかさ的にはちょっと惜しい空模様に対し、ステージ上にヒョロリと現れたハーフパンツ&パステルカラーのヴァンパイアウィークエンド。のっけからスカのように裏拍でメロディーを走らせる「Holiday」でじっと待っていたオーディエンスの体をほぐしにかかった。音源やクリップでのポップな印象は、再現される曲の楽しさや外見からそのままである。けれども意外にも音の足腰はしっかりとしており、ローファイなペラペラ感にニヤニヤするというよりは、彼らのエッセンスでもある中南米〜アフリカのリズムに身を投じるような感覚でライヴを堪能させてくれる。
今年の名盤として年末頃にまたあのジャケと対峙させられそうな『Contra』からだけでなく、ファーストアルバムからもバランスよく楽曲が披露される。中でも盛り上がったのは中盤の「A-PUNK」であろう。ギター、キーボード、そして声というカラフルな音のレイヤーが、軽やかだけどブレないリズムの上で弾む。広いグリーンステージのクラウドが揺れ、後方でもなんとなくの姿勢で見ていたであろう人が徐々に身を踊りに変化させていく様子も見られた。
フェスティバルにふさわしい、祝祭の彩りを見せた時間だった。願わくば晴天の下で、というわがままも出てきそうな彼らのカラフルなサウンドは、高い再現性をもって鳴らされた。だが、やっかいな曇天もまた、彼らの多様性の中に内包されたのかもしれない。だって僕と、その他多くの人は、彼らの時間を使ってずいぶんと体を揺らされていたわけだもの。
写真:穂谷益代