強くなる一方の雨は遠慮を知らず、さすがに参る。足元がピカピカ光り、気を抜けばマンガのようにひっくり返る危険すらあるのに、奥地から戻ってきた人たちも、グリーンステージから発せられる磁力によって、どんどんとモッシュピットに吸い込まれていく。時間よ止まれ。そう願う人たちの最後の宴がいよいよスタートした。
フジロック前にリリースされた4thアルバム、その名も『Night Works』。高らかと、Sissor Sistersの代名詞を宣言したこのアルバムは、まさに原点回帰。胸のはだけたジャケットに、遠めからみてもどうやら網タイツから半裸を経て、最後にはパンイチに……深夜の物好きが集まる名残惜しさもどこへやら、ジェイクの本気具合にただただ爆笑。姐さん!そう呼ばれる人は、きっと美人と強さとエロさを持ち合わせた人だと再確認させてくれるのが、胸元の大きく開いたレザーのドレスに、濃い目の化粧のアナがジェイクの隣に凛々しく立つ。
『Night Works』からの曲を中心に、ジェイクとアナの極上エンタテイメントは、夫婦漫才の掛け合いのように、お互いステージの端と端で投げかける視線が遠くなっても、ぶれることのないジェイクとアナ。時として、スクリーンにどアップで映し出されるのは、アナに支配されたジェイクとのいけない情事。世の中のあらゆるすべての事柄の原点=支配者と被支配者の関係を表す縮図の原点ともいえる人間の生々しい面を惜しげもなく曝け出した。それはタイトでポップな曲であればあるほど、オーディエンスが狂おしく踊れば踊るほど、相反する支配と被支配の関係が鮮明になっていった。前回、フジのステージに立ったのは、2006年のホワイト・ステージ。あの時には、バンドよりもステージが遥かに大きく見えたのに、この日はどうしたことか、グリーン・ステージが小さく見え、完全に3万人のオーディエンスを一気に飲み込んだ。
Scissor SistersはScissor Sistersであるのに、メディアによって、そして世界中の人たちによって、Scissor Sistersが勝手に独り歩きしてしまい、Scissor Sistersが本来のScissor Sistersでない時期もあった。こういうことはScissor Sistersに限らず、超破格のビッグ・ウェーブを起こしたバンドにはよくあること。Scissor SistersがScissor Sistersであることを勝手に操作され、Scissor SistersがScissor Sistersであることを見失いかけた時期もあったという。だがScissor SistersがScissor Sistersであることを堂々を証明してくれた。フジロック最終日、最後まで天はフジロッカーズに微笑むことはなく本格的に降ってきた雨とは裏腹に、原点回帰して、晴れ晴れとしたScissor SistersであるScissor Sistersがそこにいた。
写真:前田博史
文:ヨシカワクニコ