前夜祭から降り続いた雨が止んだり、また降ったり。そんな山特有のお天気でも、フジロック初日に来ているお客さんのテンションは高い。変わらぬにぎわいを見せるオアシスエリアを抜け、OGRE YOU ASSHOLE(オウガ・ユー・アスホール。以下:オウガ)を見ようと早めにレッドマーキーへ向かうと、心地良く響く独特の彼らの演奏が、すでに会場から聴こえてくるではないか。
慌てて会場に入ると、ちょうどメンバー自身がステージ上でサウンドチェク中、というか終えたところ。ギター&ヴォーカルの出戸が若干照れ気味に「じゃまた後で。」と言葉を残し、舞台裏に戻って行くところだった。
余韻を残したまま、ほどなくしてライヴは始まった。澄み切った演奏はたちまち会場を包み込み、演奏の上を軽やかに滑るように乗る出戸の歌声もあいまって時間がゆっくり流れるような不思議な感覚が訪れる。心地良い空間の出現に、あっという間にレッドマーキーは人で埋まり、目をやれば、先ほどまで床で死体のように眠っていたお客さんも起きていてステージに見入っていた。
ライヴ中、後ろにいたカップルの男性の方が「このまま聴いてこうか。」と話しているのが聞こえて来た。ここフジロックにも「自分内タイムテーブル」通りに動くべく、広い会場内をロードするお客さんもたくさんいるに違いない。でもオウガのライヴは、それをさせない引力があったようだ。
「やー、フジロック楽しい。ここは天国っすね、ホントに。」そう語る出戸は演奏中何度も嬉しそうな表情をしていた。オウガのライヴは基本的に「ノルぜアツいぜ!」といった直接的なものではないけれど、確かに強いヴァイブレーションが広がるのを感じる。それは決して派手に燃え上がることはなく、けれども燃え尽きる事のない芯を持つ個性というものなのだろう。
写真:岡村直昭
文:小田葉子