まだ誰もでてきていない、何も始まっていない。ステージがそんな状態なのに、レッドマーキーの温度はすでに沸点にまで達しようとしていた。浅井健一と照井利幸が一緒にフジロックのステージに立つというのは、フジロッカーにとってこれほど重要なことなのだ。わかってはいるつもりだったが、目の当たりにすると何もわかっていなかったことに気づく。その存在の大きさは常にこちらの想像を超えている。ヒートアップするオーディエンスとは裏腹に、見事なほどいつものままでベンジーがステージにあがってきた。やはりこの人は”苗場の顔”のひとりなのだろう。フジロックという場にいるのが、とてつもなく自然だ。演奏が始まると、感情を抑えきれなくなった前方の観客が爆発。いきなりモッシュの嵐を繰り広げる。「Fujirock Babys,We are PONTIACS」の挨拶の後も熱狂は止まらない。これまで、数回のライヴと会場限定販売CDしか触れる機会のなかったバンドだ。初めて見て、聴く人が圧倒的に多いはず。それでも、これだけの盛り上がりを見せるのは3人が、なによりベンジーが出す音にぶれがないからだ。ブランキー・ジェット・シティ、シャーベッツ、ユダ、浅井健一バンド……。出演する名称と形態は変わってもやっぱりベンジーはベンジーなのだ。それは他のふたりも一緒だろう。そんな3人が奏でる音楽は、3ピースならではのシンプルさと激しさで、うっかり手を出したら切られそうなほど鋭い。曲はすべてPONTIACSのオリジナル。ブランキー時代の曲を1曲でもやっていたらどうだったかな?と、つい欲張りな妄想をしてしまうけれど、これでいいのだ、多分。これがいまの3人が出したい音なのだから。
写真:古川喜隆
文:輪千希美