定刻ギリギリにレッドマーキーへ向かってみると、あの屋根の下へ入ることすらも不可能なほどの人、人、人。雨が降っていたことも影響しているもしれないが、それにしてもこんなにも多くの方々にお目当てにされていたとは思わなかった。アイリッシュ・パンクの愛すべきバンド、Flogging Molly。これまで何度となく日本を訪れ、その行った土地で凄まじい熱気を生み出してきたことで,既にその実力は証明されていることだろう。レッドマーキーのトリを務めたこの夜も、当然のように凄まじく熱い夜へと変えていった。
小気味よい疾走感溢れる演奏と軽やかだけどちょっとくぐもった歌声、そこにアコーディオンとヴァイオリンが重なって絶妙な華やぎをもたらし、陽気で熱量の高い空間を描き出す。伝統的なアイリッシュの薫りをたっぷり撒き散らしながら、パンクの昂揚感を伴って炸裂するサウンドが彼等の持ち味だ。カントリーやフォークといった要素も含んだメロディにもまた風情があり、やはり聴いていて非常に心地よい興奮に襲われる。人間の本能を呼び覚ます音楽、胸の奥底から蒼白い炎を燃え上がらせる音楽である。これを前にしてしまったら会場のテンションが爆発してしまうのも無理はないだろう。
序盤から既に踊り狂う人、飛び跳ねる人、モッシュする人が続出。気づけばこの波は大きくなり、狂乱の宴となっていく。屋根の下に入ることができず、かなり後ろで見ていた自分にもこの熱波が伝播していて、肩を組みながら楽しそうに歌っている人たちの姿も目に付いた。とてつもなく気分が昂ぶるライヴであるのは確かだが、情熱的で激しい演奏の中で笑顔がここまで咲いていくのも、底抜けの陽気さが彼等の音楽を包んでいるからだろう。
当然ながらライヴが進めば進むほどに熱気は高まり、鼓動は高鳴っていく。人間の鼓動に合わせたかのようなリズムが心地よかったり、どこか懐かしさを持ったメロディに温かみを覚えたり、パワフルなアンサンブルに牽引されたりというのにも興奮を誘われた。その中で何より、演奏している本人たちの笑顔がまぶしいぐらいに輝いているのが印象的だった。そんな彼等と会場との間にあった、もの凄い一体感も素晴らしく感じた次第。1時間強に及んだライヴだが、まさに”楽しさの詰め合わせ”のような貴重な時間を私たちに与えてくれた。
写真:佐俣美幸
文:伊藤卓也