夕方近くなり、雨が降り出した苗場。時折強く降るので、フジロック唯一の屋根付きステージであるレッド・マーキーには、たくさんのお客さんたちが避難してきた。The XXにとっては、有利な状況であった。
そこにバンドが登場する。思ったよりもバンドを歓迎する声が上がり、単なる避難民たちではないらしい。しかし、若くてもマイペースThe XXのメンバーたちは、淡々と演奏をしていく。アッパーなものを期待していた人には肩すかしを食らわせ、踊れるものを期待していた人には気だるさを、モッシュを期待していた人にはまったりを提供した。
深く、静かに、暗黒の世界に触れるような音楽だった。照明も音楽に合わせ暗めである。そうしたバンドを取り囲む演出のひとつひとつが、だんだん夜がやってくる時間帯、屋根があってお客さんは満員に近いのに熱気がこもらず、雨のせいで山の冷気が漂うレッド・マーキーにふさわしいものになっていたのだ。
ギターの、ロミー、ベースのオリヴァー、機材を操作するジェイミーによって”Crystalised”から始まったライヴは、今年5月におこなわれた前回の来日公演と大きく変化するところはなかった。まだ若いはずなのに、この揺るぎなさはすごいと思う。そしてフジロックのお客さんたちに、こうした世界があり、踊れなくても、歌えなくても、暗くても、たくさんの人たちの心を掴んで離さない表現があるのだということを教えてくれたのである。ラスト”Infinity”で一心不乱にシンバルを連打していく場面だけが、唯一アッパーな気分になったところだった。それが最後の最後までThe XXにつきあったお客さんたちへのボーナスのようでもあったのだ。
写真:前田博史
文:イケダノブユキ