夕方からの雨は降ったりやんだりが引き続き、まだ、星空を見せてくれる気配はない。そろそろカナダはトロントの大御所バンド、Broken Social Sceneが始まる頃には、レッドマーキーには、雨宿りがてらを踏まえてみても、そっと人の合間を縫ってみようと試みても、どの隙間ももう私ひとりがスルっと抜けさせてくれるスペースすらないくらいにパンパンになっている。それぞれのメンバーがそれぞれに活動するのも嬉しいのだけれど、本家バンドとしてこうやってライヴを披露してくれる瞬間というのは、格別なのだ。
2006年ぶりのフジロックの出演は、2日前には台湾で2時間に渡るライヴを終え、ビュワっと海を越えてというスケジュールだったという。とりあえず、うっすらステージを拝める自分なりのベストポジションをうろうろと探しているうちに、メンバーが登場したのかも見えない状態で、おおおっと老若男女入り乱れる拍手の嵐と歓声がレッドマーキーを包んだ。
『Forgiveness Rock Record』の”World Sick”から始まるやいなや、沸き上がるオーディエンスの興奮というステージからの絶景を眺め余裕すら伺えるボーカルのケヴィン。タイトにピッチを保つドラムにキラリとサイケなキーボードの和音が照明に融合していく。その様は、観ているこちら側も安心して観ていられる安心のクオリティ……何が起こるかわからないのもライヴであれば、こうやって確実に再現されるバンドサウンドというのも、ライヴの醍醐味なんだなぁということを再確認させてくれる。演奏するのはBroken Social Sceneなんだけれども、このアルバム制作にはToritasやPavement、DFA1979なんて名前が連なっているとなると、その形跡をサウンドから探し出すなんてことも、また違ったBroken Social Sceneというバンドの楽しみ方なのだろう。
なかでもごくごく個人的には”Texico Bitches”は秀逸だった。一見ポップなメロディに隠されたSteve Miller Bandの”Filthy McNasty”を彷彿とさせられる瞬間もあり、その融合こそがBroken Social Sceneらしさだと再確認させられた。
写真:前田博史
文:ヨシカワクニコ