Jaga Jazzistはここ数年、いよいよ初来日するという噂が何度となく流れていたけれど、その度に噂は噂で終わっていた。新たな噂がたってももう、狼少年の物語となり、聞き流す程度になっていた昨年秋、念願のチャンスが訪れた。初日となった京都造形芸大でのライヴの破格さが一瞬で伝わり、東京2公演も満杯だったという。京都でのライヴの本編ラスト”Oslo Skyline”が終わると、まだきっと先に何曲かのアンコールが控えているのはわかっていたけれど、心の底から、今すぐこの場を立ち去っても何の後悔もしないというほどの満足感に駆られた感覚を今でも忘れることはない。フジロックのラインナップにJaga Jazzistの文字列が追加された日には、もう一度、あの感覚を体験できる日がすぐ来るのかと、心が飛び跳ねた。
何とか怪しいながらも持っていた青空もどんよりと重い雲がたちこめ、いよいよ土砂降りに見舞われた午後5時のホワイトステージ。しっかりとしたカッパを着ても雨が隙間を見つけては肌につたってくる。それを考慮しても、絶対にどんなひどい雨になっても、絶対にここを離れることはないと心に決めていた。待ちに待ったJaga Jazzistが満を持して登場するのに、雨なんて一切関係なかった。ライヴが終わった今、やんだ雨に代わって全身にしたたってくるのは汗のみ。ステージは遠くても、スクリーンに映し出される各メンバーの手元は、ほれぼれとただただ手さばきをじっと眺めていたくなるような、巧みの技の連続。
『One Armed Bandit』仕様に飾られたステージには9人とそれとは倍くらいの楽器が並び、”Book Of Glass”、”One-Armed Bandit”へと続き、1曲をのぞいては、『One Armed Bandit』からのセットとなった。頭数曲は半円を描くように配置されたメンバー同士が音を確実に確かめ合うようにか、心なしかまったりとしたテンポで演奏され一瞬、戸惑いを抱かされるもやっと声を発したバンドの中心メンバーでもあり、唯一の盛り上げ役、Martin HorntvethのMCが入る頃から本来のJaga Jazzistは自信の煌めくペースを取り戻した。「こんなにカラフルなレインスーツを見たのは初めてだよ」なんて、遠く北欧はノルウェーから念願のフジロックに着た感慨深さを笑いに変えていた。”Toccata”、”Music! Dance! Drama! “、と繰り広げられるone armed bandit=スロットマシン・ワールドはリーチなしにビッグボーナスを繰り返していき、その限度は簡単に決壊した。後ろを振り返ると、後方までぎっしりで、ただただ圧倒されて静観するのみの人、メーターが完全に振り切れて踊り狂う人、そして私の周りには、エアギターで最高の音をプラスする、10人目のJaga Jazzistのメンバーがどんどん生まれてきた。
ヘリコプターの音(イントロ)がステージに流れ、この流れだったらこれで終わでもおかしくないなと思わされた”Touch Of Evil “では、完全にダンスの花が咲き乱れていた。もうこれだけでも十分満足だった。フジでJaga Jazzistをこの音の洪水とダンスの競演という言うことなしの環境で観られたのだもの。でも、それだけでは終わらなかった。”Naeba Skyline”という言葉を待っていたものの意表をついての”Fuji Rock Skyline”!!! 誰もが待っていたであろうこの瞬間だ。ステージに一列に並んだ9人は笑顔を残して颯爽と去っていった。撤収が始まっても鳴り止まないアンコールの拍手と声。こんな光景を観たのはいつぶりだろうか? 終わった瞬間にたったひとつの思いが駆け巡った。今すぐこの場(フジロック)を去っても何の後悔もしない、と。
写真:北村勇祐
文:ヨシカワクニコ