「現在お座りになっているお客様、次のバンドは大変な混雑が予想されます、お立ち頂けますようお願い致しまーす。」
それまでマイチェアでくつろいでいたお客さんに、ホワイトステージのスタッフより声がかけられ始めた。日も暮れかけ始めたフジロック二日目。着々と流れ込むお客さんで、ホワイトステージはパンパンになり始めていた。
「ありがとう。あいたかったよ!」
”弾丸ロック” で幕を開けたザ・クロマニヨンズのライヴ。前のめりスタイルで現れたヒロトが”タリホー”で腕をブンブン振り回して見せる。ステージで跳躍する姿は、相変わらず重力を感じさせない。
中盤、”草原の輝き”でヒロトの鳴らすハープが背後の山々にバリバリと吠えるように響き渡った。演奏後、着ていたTシャツを脱いでいたヒロトは脇の下をタオルでワシワシと拭いてみせて、いたずらっぽく笑っている。
「やあ!気持ち良かったからちょっと今日は長かったけど。これからまたテンポを上げていくので。みんなも一緒に歌ってくれー。」
そう言ってヒロトが客席に呼びかけると、”グリセリン・クイーン”から再び演奏を疾走させ始めた。スクリーンにはたびたびメンバーのアップが映しだされる。ほのかに浮き出ている腕や首元の血管がスクリーンにあらわになるたびに、あぁ、血の通った人間の音だなぁ、なんて当たり前の事を改めて実感して、こちらの胸もアツくなってくる。
「あぁ楽しいなあ。どこで演るのも楽しいよ? でも、こんなロックンロールが大好きな人がいっぱい集まってくれると本当に、ホーム! 世界中にアウェーは無いような気がして。ただいまぁ!……今なんか、上手にまとめた(笑)」そう言って、言葉の終わりに、おどけてみせるヒロト。
ヒロトはなぜ変わらないんだろう。見た目? そうじゃなくて。持っている中身、持っている魂みたいなもの。演奏が終わると、ギターの真島がマイクに近づき、客席に向かって「おつかれさーん! またね。」と言って去って行った。これからも、きっと彼らは変わらないんだろうな。
文:小田葉子