日本のインストゥルメンタル・ロック・シーンを牽引するtoeが07年に引き続いてホワイト・ステージへ帰還した。そのことを本人たちは「実力ではなく政治力でこのステージに出演してます(笑)」と冗談を交えて話していたが、それは当然ながら実力があるからこそのフジロック出演であり、ホワイトステージの舞台が用意されている。静寂の余韻も、抒情的な美しさも、激情的な演奏もtoeだからこその説得力を持つ。その歌心に溢れたインストは聴き手に語りかけ、心に潤いと感動を与えてきた。その事実があるからこそ、彼等はここまで大きくなってきたのである。
優しく奏でられるアコースティック・ギターと空気を柔らかく色づけしていくキーボードが核となった「ラストナイト」、叙情の波が心を解きほぐすかのように押し寄せる「1/21」と、彼等らしい選曲でスタートしたこの夜。既にこの時点で彼等の音色に、うっとりとしてしまっていた。丹念に紡がれる音符のひとつひとつにある温もりがあり、詩的な美しさへとつながっていく。その美しさには、人間だけではなく、もしかしたら空気も苗場の森も酔いしれていたかもしれない。しかしながら、押し寄せるメロディとは相反するようにステージ上では、体全体を使って激しく熱い演奏が繰り広げられる。卓越したテクニックの応酬も見応えあるのだが、あの熱い演奏シーンにグッとくるものがあるだろうと思う。
けれども、そこからは、色々なゲストを交えて”特別感”のあるライヴへと仕様変更。土岐麻子やクラムボンのミトを加えた、代表曲の「グッドバイ」は透明感や柔らかさが増し、そのまま土岐麻子が続けて歌った「Say I’t Ain’t So」もガラス細工のようなもろくも美しい感じを醸し出していた。よりドラマティックに、よりムーディな演出がなされたこの2曲は、本日のライヴの中でもハイライトと呼べるものであったろう。「Our Next Movement」や「leave word」といった曲ではサックスやトランペットまでもが入り、キーボードやミトの再乱入を含めてプチ・オーケストラ風のパフォーマンスとなって、美しく華やいだ音響空間を生み出していた。数多の楽器で生み出す詩的なメロディとダイナミズムの嵐には問答無用で心を奪われた人も数多くいることだろう。
そして、最後には4人だけでの演奏という原点スタイルに回帰。繊細なタッチと厚みのアンサンブルで美しいインスト物語をつづる「For Long Tommorow」。彼等の熱い代表曲となっている「path」でライヴは締めくくられた。微かな蠢きすら逃さない繊細な表現、剥き出しの感情を力強いアンサンブルで牽引するtoeのライブはこの日も健在。サプライズ・ゲストを含めてとても豪勢なライヴであった。
写真:北村勇祐
文:伊藤卓也