IAN BROWN

Tag:,,

8/1 09:44  Twitterに投稿する


 両足を軽く開き、胸の前で両手を合わせ、軽くひと呼吸。そして軽く頭を垂れる。Ian Brownの登場に、沸き上がりながらもIan Brownに合わせて、ライヴの前の最後の深呼吸……そんな気持ちでふーっと一息つくと同時にとあるベース音が響き渡る。地の底から噴き出した大歓声。あぁあぁぁぁぁああぁあぁあぁぁ、たった一音ですべてを悟ったオーディエンスはきっと年齢層高めなはず。まさかの禁じ手、”I wanna be adore”。これがライヴが始まった数秒後とは思えない歓喜と情けなさとが入り交じるカオスと化した。

 これはなかったことに、そしてこれからこそがIan Brownのライヴなのよ、と心に言い聞かせやっとのことで平常心を取り戻すことに専念する。5回目のお祝いに専念する。ここからはやっとやっと太極拳、いやIan Brown拳とも言えるしなやかな動きに、スローな動きの一瞬一瞬にすべての神経を行き渡らせるようなサウンドと、期待を裏切らない、ざ☆イアン・ブラウン節を取り戻した。徹底的に太さと重さを極めたベースラインと、後ろ乗りの重たいドラムに支えられ、徹底的にぐだぐだな、でも本人に至っては気持ちよさこの上ないと意気揚々にIan Brown様のおなぁりぃ。まさに、Ian Brownのための、極上歌謡ショー。

 もうキーが外れたとか、そんなミリ単位のクオリティなんか求めていない。こんな下手○○な人がライヴなんてやっていいのかよ……はいはい、どうぞご自由に。Ian Brownに限っては、そんなミリ単位のクオリティにより歌われた日にゃあ、ね。あんなに気持ちよく堂々と、Ian Brown節を炸裂させられる人なんて他には絶対いないし、それを不快感ゼロ、むしろ、こちらの最高の高揚感へと変えさせてくれるのは、Ian Brownしかいない。もう随分と年を重ねてきているし、これからも着実に年を重ね、マンチェスターの永遠のならず者、極上の称号を手に入れても、このIan Brown節だけは磨きをかけていってほしいと切に願う。そしてもう最後はさらっと”Fools Gold”。もう驚きもしないよ。

写真:古川喜隆
文:ヨシカワクニコ