怒髪天

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7/31 12:47  Twitterに投稿する

 兄ィ~~!

 客席からそう呼ぶ声が聞こえる。すわ、コント赤信号の渡辺正行の登場か!? と思うとそうではない。「男」という名のフレグランスを振りまき、R&E(リズム&演歌)なる音楽ジャンルのエクストリームをキメまくる、怒髪天の登場だ。断続的に降り続いた雨が一段落したフジロック二日目の朝、三三七拍子の手拍子と共に、彼らは現れた。

 ステージに登場した途端、ロックンロール・エチケットと言わんばかりにカッチリ分かれた七三分けをクシで直し、直したクシ(ちなみに名前入りらしい)を客席に投げる増子兄ィ。

「いやもうね、八年越し!やっとメンバーが誰も死なないうちに呼ばれました!フジロック!」

 会場入りした当初、ホワイトステージのお客さんの入りを見て、暑いさ中に背筋が寒くなったという増子兄ィ。ところ天国の方を指差し「どうすんだと!あそこの人達をせき止めろと。」とリアルに語ってみせると、結果的に大入り状態のホワイトステージのお客さんが、どっと沸いた。

「フジロック初参戦という事でね、電報も来てます。bloodthirsty butchers吉村秀樹より。ね。」

 思えば二日目のホワイトステージには、怒髪天の後にbloodthirsty butchersが登場することになっている。かつて札幌でモヒカン頭の赤と青、それぞれ赤鬼(ブッチャーズ:吉村秀樹)、青鬼(怒髪天:増子直純)と呼ばれていた仲である。午前中のホワイトステージは、気が付いたら完全に札幌ハードコアの両雄にジャックされてしまっていたということか。

 ”労働CALLING”ではギターの上原子が華麗な速弾きソロを見せ、増子兄ィが日の丸の扇子で観客を煽る。”アストロ球団応援歌”では「ジャコビニ流星打法!」なんて細かすぎて伝わらなさそうな叫びでお客さんが沸き、榊原郁恵のカバー曲”夏のお嬢さん”では「おじょうさん、おぉじょうさんんん~~」とドスの効いた声で仁義を切りながらポーズを取る増子兄ィの姿は、「アイドル」の四文字とは二万光年くらい離れていそうだ。最後に演奏された80’Sアイドル直撃サウンド”真夏のキリギリス”も、メンバー全員アイドル雑誌の表紙で白い歯を見せてしまいそうな勢い。なにもそこまで。完全ジャック状態のステージで、怒髪天は初登場とは思えない演奏と貫禄……というか、スパークを見せていた。

 「アニキって言われてる人って絶対バカでしょ?言ってる人もバカだし。そのカッコ悪いってところが何ともシビれるね。」

 増子兄ィはかつてこう語っていた事がある。「見えている」バンドは強い。去年結成二十五周年を迎えたこのバンドの持つ、身を削ることも辞さぬ姿勢や覚悟や信念。やはりフジロックでも、それらは伊達じゃあ無かった。

写真:中島たくみ
文:小田葉子