今年5月に発売した3枚目のフルアルバム『This Is The Happening』をLCD Soundsystemとしての事実上のラスト・アルバムと宣言した、ジェイムス・マーフィー。有終の美を飾るのにふさわしいこの傑作を引っ提げて、もしかしたら最後になるかもしれないフジロックの舞台に登場した。
夕暮れ時から幻想的な闇夜に落ちていく時間帯のホワイト・ステージが今回の舞台となったが、即効性も遅行性も備えたLCDのダンス・ミュージックの気持ちよさに終始酔ったライヴだった。熊みたいなでかい体をしたオッサン(本当に巨体だった)とその彼を取り囲むように陣取るバンド・メンバーの6人が紡ぎだすポスト・パンク~ダンス・ロック~エレクトロニクスを優雅に操る革新的サウンドは、クールに統制されながらも魔力のような快楽性を秘めている。ベース、ドラム、パーカッションの肉体性の強い人力パワフル・グルーヴを下地にジェイムスの熱のこもったヴォーカル、うねるギター、ユニークな電子音が濃厚に絡み合う。そのツボを外さないダンス・ビートが本当に気持ち良すぎて困る。神経の一本一本に響く音というか、それが精妙に紡がれて心身の解放を促していく。当然、その音に誘われるように会場もゆらゆらと揺れっぱなし。シンプルに踊り狂える「Drunk Girls」や独特のフレーズが耳にこびりついて離れない「Pow Pow」などアッパーな内容で苗場を席巻していた。もちろん、この心地よい昂揚感は緻密な理論や人間の構造や特徴を計算した上で、リズムを設計しているからだとは思うが、ロック譲りのダイナミズムや人力による有機的な熱気が伝わってくるからこそノリやすいとも思える。人力で創り上げるが故の気持ちよさ、それがあるLCDの存在感は大きい。
しかし、LCDのライヴ中は、今年のフジの超目玉であるトム・ヨーク率いるジェイAtoms For Peaceへの移動が絶えなかった。曲が終わるごとにホワイトの人数がだんだんと少なくなっていくのを見ているのはつらいものが・・・。多分、始まった時の2/3ぐらいには減っていってしまっただろうか。それでも彼等が創造した孤高のダンス・フィールドには終始、小刻みに揺れされ続け、もしかしたら最後になるかもしれない時を十分に堪能することができた。まさしく、至福の時間。ずっとこの音を浴びて、踊っていられたらと何度も思わされた。ちなみに、ジェイムス・マーフィーは深夜0時からは、ソロDJとしてレッドマーキーを賑やかに踊らせていた。
写真:森リョータ
文:伊藤卓也