重力<浮力という方程式が成立した時の、鉄のかたまりが自由に飛行を可能とする飛行機の機体のように、!!!は完全にホワイトステージを支配した。1万人が収容できると言われるホワイトステージは後方までほぼ満杯。そのオーディエンスを完全に食ってしまった。
適度にフィットした水色のポロシャツに紺色のホットパンツ姿で颯爽とステージを、そしてピットに降りてはオーディエンスに絡み、カメラマン泣かせとも思える、落ち着きのないおりの中の猛獣のようなフロントマン、ニックの自由度の高さたるや。顔は真剣そのもの、新種のエクセサイズか、あるいは、髭のみない完全なるヒゲダンスのカバーか、圧倒的なオーディエンスの支配の中心にいたのも、ニック張本人だった。
フジロック前にリリースされた3rdアルバム『Strange Weather, Isn’t It?』は、これまでの!!!から脱皮し、しなやかさを手に入れた。これまでの竹刀でスカっと打ち破るストレートな破壊力に加えて、鞭の弧を描いた後にやってくる、残りの鋭い痛みを与える技を得たのだった。そのストレートな破壊力と鞭のように後からやってくる痛みとが入り交じったのはサウンドだけではなく、女性ボーカルのファンキーさを加えて、!!!が目の前でも猛スピードで細胞分裂を繰り返していくのだった。新旧おり混ざったセットリストの合間に、Roxy Musicのカバーが披露されたのも、今年のフジロックならではの!!!からの嬉しいサプライズだったにちがいない。
ライヴは生き物であり、2度と同じものは観られない。それは重々わかっていても次のチャンスがあるからという勝手な過信により、その日にしか観られなチャンスを逃しては、風の噂で聞こえてくるとんでもない感想に、また次があるから、なんていう強がりを見せてはいないだろうか? !!!がフジに初めて出演したのは、真っ昼間のホワイトステージ。あの時も、いまでも語りぐさとなっているライヴをして圧巻させていたという。あれからバンド自体も、メンバーの事故死や脱退というターニングポイントを迎えながらも、立ち止まらず!!!であるのは、!!!が細胞分裂し続けている証拠であり、細胞分裂を自らの力でやめてしまうことがない限り、これからも!!!はどんどんと変化をし続けていくに違いない。
写真:北村勇祐
文:ヨシカワクニコ